私たちはそれ以来、毎晩のように愛し合った。
 いや、毎晩という表現は正しくない。用事のない日の日中にカーテンを閉めてしたこともあるし、朝起きた時にしたこともある。
 自分が、こんなにセックスが好きだとは思わなかった。だけど笙子も嫌がっている様子はないし、構わないだろう。
 実際のところ、嫌がるどころではない。むしろ喜んでいるといってもいい。私が求めれば素直に応えるし、さすがに自分から口に出しておねだりすることはないものの、お風呂上がりに甘えるように身体をすり寄せてきたりもする。
 笙子との同棲生活は、これまで以上に上手くいっていた。
 もちろん、毎日セックスばかりしていたわけではない。
 私はバイトもあるし、それ以外の日は笙子に札幌の街を案内してやったり、プールや海へ連れて行ったりもした。
 そして今日も、そんなデートの日だった。


 二人で映画を観て、そのまま街で夕食を済ませた後で、私は考えていた。この後どうしよう、と。
 大学の友達となら、飲みに行くかカラオケか……というところだが、笙子は未成年だし、カラオケというのもイメージに合わない気がする。
 ゲームセンターか、ボーリングかビリヤードか……と考えているうちに、ふと、悪戯心が湧いてきた。
「ね、笙子」
 歩道を歩きながら笙子の肩を抱いて、耳元でささやいた。周囲の人には聞こえないように、小さな声で。
「たまに、私の部屋以外のところで、しようか?」
「え?」
 言われたことの意味が分からないのか、笙子がこちらを見て首を傾げる。
「……ラブホテルって、行ってみたくない?」
「え……」
 見る見るうちに、頬が赤く染まる。
 この数日でずいぶん経験を積んだとはいえ、まだまだうぶな女の子だ。真っ赤になって、恥ずかしそうにうつむいている。
「どう? いや?」
「……ちょっと、興味はありますけど……」
「よし、決まり。じゃあ行こう!」
「え……、でも……」
 肩を抱いた腕に力を込めて、少し強引に、笙子をススキノのホテル街へと導いていった。



「う……わぁ……」
 部屋に入ると、笙子は驚いたような、あるいは感心したような声を上げた。
「こんな風になっているんですね……」
 ススキノの南端に近い一角にある、とあるラブホテルの一室。一番目立つのはダブルベッドで、周囲の壁や天井は、鏡張りになっている面積が妙に広い。
 あとは小さなソファとテーブル、テレビ、冷蔵庫やポットといった、ごくありふれた品々が置かれている。
 笙子はスリッパを脱いでベッドに跳び乗ると、きょろきょろと周囲を見回した。心なしか頬が赤い。
 なるほど。ベッドに乗った状態で、自分がどう映るか確かめたのだろう。
「どぉ? お嬢さん、感想は?」
「……この鏡は、ちょっと恥ずかしいですね」
「それがいいんじゃない」
 私は背後から笙子を抱きしめると、うなじに唇を押しつけながら手を胸に回した。もう一本の手は、下へ滑ってスカートをたくし上げる。
「やぁ……そんな、いきなり……」 
 か細い抗議の声を無視して、手を中に入れた。ショーツの上で中指を滑らせる。そこは幾分湿っぽく、そして周囲よりも体温が高いように感じられた。
「ラブホテルに入っただけで、もう興奮してるんじゃない?」
「ん……ふ……ぅん……。そんなぁ……」
 やや乱暴な愛撫に対して、笙子は目を閉じて身体をよじった。確かに、もう感じている。
 私にも憶えがある。ラブホテルというのはただ一つの目的のために訪れる場所だから、中に入った時点で、心はもうその気になっているものだ。
 ショーツの中に指をもぐり込ませると、熱い滴が私の指を濡らした。笙子の身体は、日増しに敏感になっていくようだ。
「あぁ……あ、……あ、……んっ!」
 第一関節くらいまで指を中に入れて、小刻みに動かす。中から、熱くとろけた蜜がさらに溢れ出してくる。
 バージンを失ってから、まだ半月も経っていない女の子なのに、こんなに感じてる。
 私の初体験は高校二年だったけれど、セックスが本当に良くなってきたのは、大学生になってからだ。笙子はもともと感じやすい体質なのだろうか。
(それとも……。私って実は、テクニシャン?)
 ついそんなことを考えてしまうくらい、笙子は私の愛撫に敏感に反応してくれる。それが楽しいから、ついつい毎晩してしまう。
「ほぉら、もうぐっしょり濡れてる。感じやすいんだから」
「ん……、はぁ……っ」
 笙子は目を閉じて、体重を私に預けて、本格的に感じる体勢になっている。すっかり、その気になったようだ。
 私はちょっとだけ、意地悪することにした。いきなり愛撫を中断する。
「……でも、おあずけ」
「え……?」
 驚いたように目を開けた笙子は、そのまま潤んだ瞳で私を見た。このまま続けて欲しいと、その瞳がせがんでいた。
「先に、一緒にお風呂入ろうよ。せっかく、二人で入れる広さがあるんだから」
 アパートの狭いお風呂では、とてもそんな真似はできない。一緒にシャワーを浴びたことはあるが、湯船に浸かるのは不可能だ。
 その点、ラブホテルのお風呂はいい。狭すぎず広すぎず、ちょうど湯船の中で密着できるスペースがある。
 一緒にお風呂、というのは笙子にも魅力だったらしい。急ににこやかな表情になる。
 湯船にお湯が貯まるのを待って、二人でバスルームへ入った。笙子は髪が長いから、タオルを巻いてまとめている。普段は髪に隠れている背中とうなじが露わになっているのが、なんだか色っぽい。
 二人で湯船に浸かると、お湯がざぁっと溢れた。私は、笙子を背後から抱きしめるような姿勢になる。無防備なうなじにキスをしたのは言うまでもない。
「こんなところで……、のぼせちゃいますよぉ」
「別に、お湯の中じゃなくたってのぼせるくせに」
 私はそのまま、先刻ベッドの上でしていたことの続きを再開する。
 笙子の身体はすぐさま反応し始めた。息が荒くなり、あの部分はお湯の中でもはっきりわかるくらいにぬめりを帯びている。小さな乳首も、つんと固くなっている。
 愛撫を続けながら、耳たぶをそっと噛む。甘い、鼻にかかったような声が漏れる。
 指を、少しずつ中へ沈めていく。まだ、少し抵抗感がある。だけどもう痛がりはしない。気持ちよさそうに、小さな溜息をついていた。
 私はそのまま、愛撫を続ける。笙子は切ない吐息を漏らしながら、私に身を任せている。
「沙紀さん……。私、もう、本当に……」
 やがて笙子の顔は、真っ赤に茹で上がったようになった。それが、お湯と私の愛撫のどちらがもたらした結果かは分からない。だけど、そろそろ限界かもしれない。
 このまま笙子をいかせたい気もするが、そうすると本当にのぼせて倒れてしまいそうだ。未練はあったが、湯船での愛撫を中断した。
 笙子はふらつきながら、洗い場へ上がる。脚に力が入らないのか、そのままタイルの上にぺたんと座り込んだ。
「身体、洗ってあげる」
 たっぷりとボディソープを染み込ませたスポンジを、放心していた笙子の背中に押しつける。笙子の身体がぴくんと震えた。
 私は優しく、スポンジを滑らせた。背中から肩、腕、そして前の方へと移動していく。
「や……ぁ……」
 乳房の上で円を描くようにスポンジを動かす。空いている手も前に回して、もう片方の胸を包み込んだ。そして、背後から身体を密着させる。
「沙紀さん……。あっ、あんっ、あんっ!」
「どうしたの、変な声出して?」
 そう言って笑いながら、スポンジを一番敏感な部分で滑らせる。笙子の声が一際高くなった。
 ボディソープとはまた違ったぬめりが、私の指に触れる。
「こんなに感じちゃって、笙子ってばエッチだね。身体を洗ってあげてるだけなのに」
「……エッチなのは……さ、沙紀さんですよぉ……」
 黒い瞳を潤ませて、笙子は抗議する。私は手の
動きを速くした。
「反論する気? そんな子はこうしちゃうぞ」
 泡だらけのスポンジが、脚の間を小刻みに往復する。
「やぁっ! あん、あん! あぁんっ! あぁっ、あぁぁっ!」
 笙子は上体を仰け反らせて、私に体重を預ける。一瞬、全身が硬直し、やがてふぅっと力が抜けていった。
「沙紀さんの、意地悪ぅ……」
 シャワーをかけて泡を洗い流してやっている間、笙子は荒い息をしながら恨みがましい目で私を見ていた。その顔に、一瞬だけシャワーを向ける。
「私には、悦んでいるように見えたけど?」
 それが事実だから、笙子はなにも言い返せなくなった。
 黙ってこちらを向くと、タイルの上に落ちていたスポンジを拾い上げ、ボディーソープを含ませた。
「じゃあ今度は、わたしが沙紀さんを洗ってあげます」
「え?」
 言うなり、笙子が抱きついてくる。スポンジが、胸に押しつけられた。
「ちょ、ちょっと……笙子?」
 笙子は戸惑っている私を無視して、スポンジと手で私の身体を撫で回している。今まで笙子を可愛がって興奮していた私の身体は、簡単に反応しはじめてしまった。
「や……あっ、はぁ……あぁっ、んっ!」
 スポンジが胸からお腹、そしてさらに下へと移動していく。私がしたのと同じように、一番感じるあの部分の上を前後に滑っている。
「あぁっ、あぁぁっ……こら、しょ……こ……。あぁーっ!」
「どうしたんですかぁ? 私は身体を洗ってあげてるだけなのに、沙紀さんってエッチ」
 先刻の私の口調を真似て、笙子が意地の悪い笑みを浮かべる。
「こら、笙子!」
 私は笙子を抱きしめると、そのまま押し倒した。泡に覆われた肌と肌が擦れ合って、とても気持ちがいい。
 唇を重ねる。手は身体中をまさぐっている。
「やぁっ、こんなところで……ちゃんとベッドでしましょうよぉ……」 
 もう、前戯は十分だった。私ももう我慢できない。
 シャワーで二人の身体に残った泡を洗い流すと、笙子を抱き上げてバスルームを出た。


「あの……」
 笙子をベッドに横たえて、その上に覆いかぶさろうとした私を、笙子の手が押しとどめた。
「……今日は……、わ、わたしが沙紀さんに……して、あげます」
「え?」
「だって、いつもしてもらうばっかりで……。先刻お風呂で、思ったんです。わたしも、沙紀さんを気持ちよくしてあげたいって……」
 恥ずかしくなったのか、そこまで言うと真っ赤になってうつむいた。
 私は、その申し出を喜んで受け入れることにした。これまで、ちょっと触られたくらいのことはあるが、笙子の方からそれ以上のことをしてもらったことはない。
 ベッドに仰向けになる。その上に、笙子が覆いかぶさってくる。
 いつもと上下が入れ替わっただけで、ずいぶん雰囲気が違うものだ。なんだか緊張する。
 唇が近付いてくる。
 優しく触れる。
 躊躇いがちに、舌が入ってくる。私も舌を伸ばしてそれに応える。
 私も笙子も、キスが大好きだ。キスだけを何分も続けることも多い。だけど今回のキスは短かった。それでも不満は感じなかった。今日はもう、キスだけで満足できる段階はとうに通り過ぎている。
「……初めてだから、上手くできないと思いますけど……許してくださいね」
「……笙子にしてもらうなら、なんだって嬉しいよ」
 笙子の頭が下へ移動していく。乳房に唇が触れる。私は小さく声を上げた。
 胸を、強く吸われた。キスマークが残るくらいに。
 私が笙子に、いつもしているように。
 恋人にキスマークをつけるのは好きだ。相手が自分のものだという、印をつけたみたいで。
 笙子も私の真似をしているのだろう。だけど、私と笙子では少し事情が違う。
 笙子は人前で肌をさらすことなどほとんどないだろうが、私は毎日のように道場で着替えをしている。もしも彩樹あたりに見られたら、またからかわれることだろう。
 だけど笙子はそんなことお構いなしに、私の胸を吸い続けている。両方の乳房に、いくつも赤い痕を残して。
 それでも、笙子を止めなかった。私の身体に、笙子の愛の証を残して欲しかった。
「は……あ……」 
 気持ちいい。笙子は少しずつ位置を変えて、何度も私の胸を吸う。その度に、溜息に似た声が漏れた。
 やがてマーキングの作業は一段落ついたのか、笙子は攻撃目標を乳首に変えてきた。
 口に含んで、強く吸う。痛みすら感じるほどに強く。
 そのまま、舌先で乳首の先端をくすぐる。
「はぁっ……あん! あぁっ! あんっ!」
 私は激しく反応した。実は、乳首を攻められるのはかなり弱い。
 それを知ってか知らずか、笙子は執拗に乳首を吸い続ける。私の乳首はその愛撫に応えて、ぴんと固く立っていた。固くなっている時の方が、より敏感に感じる。その点は男性器と同じだ。
「あぁん! あっ……笙子ぉ……」
 胸への愛撫だけで、私はもうすっかり濡れていた。そこはまだ、まったく触られていないのに、熱い液体がお尻の方まで溢れ出しているのがわかる。
 私は両脚で笙子の身体を挟み込んで、性器を擦り付けるように腰をくねらせた。
「はぁ……あぁ……」
「沙紀さんが、エッチなことが大好きな理由、少しわかったような気がします」
 笙子はようやく私の胸から口を離すと、にっこりと微笑んだ。
「こうして相手が反応してくれるのって、楽しいですね。沙紀さん、感じてるのでしょう?」
「うん、うん。すごく気持ちいいの……」
 私はもう、歯止めが利かなくなっていた。久しぶりに愛撫される側に回って、これ以上はないくらいに感じていた。
「ねぇ、続けて。もっとして、もっと……」
「はい。今夜はいっぱい、しちゃいますから」
 また、笙子が顔を下げる。ただし、今度の目標は胸ではない。
「あぁっ! あぁぁぁっっっ!」
 笙子の頭が、私の股間に潜り込む。濡れそぼったその部分にキスされた瞬間、それだけで私は軽くいってしまった。
「あぁっ! はぁぁっ! あ……あん、あぁんっ!」
 気持ちいい、なんてもんじゃない。舌が触れるたびに、身体に電流が走る。ひと舐めごとにいってしまいそうだ。
 こんなに、感じるなんて。
 しばらく忘れていた感覚だった。このところいつも、笙子にしてあげるばかりだったから。それでも精神的には十分に満たされてはいたが、肉体的な快感はまた別物だ。
「イイっ! イイぃっ! あぁっ! あぁぁっ! いぃっ、イっちゃう!」
 ピチャピチャと、仔犬がミルクを飲んでいるような音が聞こえていた。実際、笙子はお腹を空かせた仔犬と同じくらい、夢中になって私を舐めている。そして私も、仔犬のミルク皿を満たせるのではないかと思うほどに濡れていた。
 おそらく本人は、自分の行為が私にどれほどの快感を与えているのか気付いていない。ただただ、一心不乱に舌を動かしている。
 ピチャピチャ、ピチャピチャ。
 仔犬のように舐め続けている。
 私はもう、発狂寸前だった。
「笙子ぉっ! ああ、笙子ぉっっ! あぁぁっっ! ああっ! 笙子ぉーっ!」
 両手で笙子の頭をギュッと掴んで、両脚で笙子の顔を挟み込む。さらに腰を浮かせて、舌がもっと深い部分まで届くように押しつけた。笙子の舌が、私の中で動きを増す。 
「あぁぁーっ! いいぃっ! いくぅぅっっ! いっちゃう!」
 こんなに感じたのは初めてだ。普段の基準でいけば、私は既に達しているのだろう。それでもまだ、身体は笙子の愛撫に反応し、さらなる高みへと昇っていく。
 それは、これまでのセックスや自慰で経験してきたオルガスムスよりも、さらに一段上の快楽だった。そして、今いる場所はまだ頂上ではない。私はまだ、昇り続けている。
 笙子が、特別上手なのだとは思わない。その舌の動きは激しくはあるが、むしろ単調と言ってもいい。経験の浅い彼女が「舐める側」になったのは初めてなのだから当然だ。
 なのに、感じてしまう。笙子の舌に愛撫されているという、その事実によって。
「あぁぁぁぁぁーっっ! あぁぁっ! しょ……笙子ぉっ!」
 何の予告もなしに、指が入ってきた。
 最初はゆっくりと一本だけ。
 それがスムーズに入ることを確かめてから、もう一本。
 自分が、指一本でもいまだに痛みを覚えるから、慎重になるのだろう。だけど笙子の華奢な指なら、三本でも私はすんなり受け入れられる。
 指を入れた後も、舌の動きは止まらない。つまり、舌だけの愛撫でも気が狂いそうになっているのに、それに奥深くまで挿入された指による刺激が加わったのだ。
 もう、限界だった。
「しょ……あぁぁっ! あぁぁぁぁぁんっ! あぁぁっ、あぁぁぁぁ――――っ!」
 二本の指が、私の中で躊躇いがちに動き始めてから、十秒と保たなかった。
 悲鳴を上げながら、私の意識は快楽の海の中へ溶けこんでいった。



 しばらく、朦朧としていたようだ。
 意識がはっきりすると、笙子が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「……あの、大丈夫ですか」
 私は小さく吹き出すと、笙子の頭を撫でた。
「すっごい、感じちゃった。笙子って上手なんだもん」
「えーっ」
 笙子の顔が見る間に赤くなる。
「そんなことないです。……沙紀さんが感じやすいんですよ」
「とにかく、気持ちよかった」
 そう言って、ぎゅっと抱き寄せる。
「いっぱい、いっぱい、イっちゃった」
「嬉しい……。沙紀さんが感じてくれて」
「私も嬉しい。笙子にしてもらって」
 そのまま私たちは抱き合って、しばらく余韻を楽しんでいた。
 お互いの体温を、鼓動を、呼吸を肌で感じていた。
 それがすごく気持ちよかった。たっぷりとかいた汗が引いてしまうまで、ずっとそうしていた。
 それからようやく、私は上体を起こした。
「じゃあ今度は、私が笙子のを舐めてあげる」
「だめですよ、次もわたしがする番です」
「どうして?」
「これまで毎日、沙紀さんがしてくれてたんですもの。今夜はわたしが、沙紀さんをいっぱい気持ちよくしちゃいます」
 悪戯な笑みを浮かべながら、笙子が私の胸に手を伸ばしてくる。私も、笙子の胸を掌で包み込んだ。ベッドの上に向かい合って座って、相手の胸を愛撫し合う。お互い、一歩も譲らない。
「強情だね」
「沙紀さんこそ」
「じゃあ、一緒にしようか」
「一緒に……って……」
「シックスナインって、知らない?」
 経験はなくとも、その言葉は知っているのだろう。笙子は赤くなってうつむいた。一見うぶなようだが、笙子も一応、エッチに関する知識は人並みにある。
「……でも、あの……」
「いや?」
「いやじゃないですけど……ここでそれをすると、鏡に映って恥ずかしいかなって……」
「ばーか、それがいいんじゃない」
 かなり強引に笙子を納得させて、お互いを舐めあうその行為を始めた。
 それがすごく気持ちよくて。
 鏡に映ったその光景がとても刺激的で。
 私たちは、何度も絶頂を迎えた。
 これまでで一番、激しい夜だった。お互い、疲れきって動けなくなるまで、何度も何度も愛し合った。
「……わたし……どんどんエッチな女の子になっちゃうみたい」
 夜更けのベッドの中で、笙子が半分眠ったような声でつぶやいた。
「いいじゃない。エッチな笙子も、大好きだよ」
「それってフォローになってません。……全部、沙紀さんのせいですよ」
「じゃあ、責任取らなくちゃね」
 笙子に腕枕してやりながら、私は笑って言った。

続く

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