私は何度も何度も、キスを繰り返した。
 ついばむようなキス。
 唇を重ねながら、片手は笙子の胸をまさぐっていた。
 小振りな乳房を掌で包み込んで、優しく揉んだり。
 あるいは、乳首を指先でつついたり、軽く摘んだり。
 私がされる側だとしたら、ちょっと物足りないような愛撫。
 だけど相手は初心者の笙子。どれだけ気を使っても、使いすぎということはないだろう。
 最初の頃は、胸はあまり感じないはず。自分の経験を振り返っても、胸への愛撫が本当に気持ちよくなってきたのは、初体験からずいぶん時間がたった頃だ。
 それ以前の段階では、胸への強い刺激は痛みでしかない。
 今の私は、相手に快感を与えるためというよりも、自分が触りたくて笙子の胸を愛撫している。
 だから、乱暴なことはできない。
 キスを続けながら、左で右の乳房を愛撫する。しばらくして身体を少しずらし、今度は右手で左胸を。
 それぞれ、うんと時間をかけて揉みほぐしていく。
 唇で塞いだ笙子の口から、時折、微かな声が漏れた。
 一度、唇を離した。笙子はそれが不満なのか、少し未練がましい瞳で私を見ている。
 なだめるように人差し指で笙子の唇に触れ、首筋に唇を押しつける。そのままゆっくりと、下へ移動していった。
 控え目な胸の膨らみの上を、唇が滑ってゆく。
 頂上へたどり着くと、そこにある突起を口に含んだ。
「あ……」
 小さな声が上がる。
 軽く、吸う。
 先端を舌先でくすぐる。
 笙子はくすぐったそうに身体をよじった。
「や……あ……、あっ……」
 乳首への愛撫を続けながら、手はもう一方の胸を包み込む。
 少しずつ、笙子の呼吸が荒くなってくる。
 これまでよりも、少し強めに吸ってみた。
「あぁ……っ。……はぁ……あっ……ん……」
 切ない声が、少し大きくなる。
 つんと固くなった小さな突起を、唇で噛む。
 そのまま軽く引っ張って、放した。
 一瞬眉間にしわを寄せた笙子が、はぅっと息を吐き出す。
「私、最初の夜もこんなコトした?」
 笙子は小さくうなずいた。恥ずかしそうに。
「もっとして……欲しい?」
 また、うなずいた。今度は躊躇いがちに。 
 私は小さく笑って、反対側の胸に顔を寄せた。
 先ほどと同じ愛撫を、こちらの乳首にも繰り返す。
「はぁ……ん……」
 甘ったるい、切ない吐息。本当に可愛い声だ。
 こんな声を聞かされたら、同性愛の趣味がなくたってその気になってしまう。
 そう、笙子が可愛すぎるからいけないんだ。
 こうなった責任を笙子に押しつけて、私は舌での愛撫を続けた。
 手は、胸からお腹へと滑っていく。
 お臍の上を通り過ぎて、さらに下へ。
「ヤ……」
 笙子の小さな手が、私の手を押さえる。目的地まであと数センチというところで。
「いや? どうして? 女の子はね、ここを触られるととっても気持ちいいの」
「でも……恥ずかしい……」
「私だって、今でも恥ずかしいよ。でもね、それでも触って欲しいって思う。そのくらい、イイことなんだ」
「沙紀さん……も?」
「そう。そして笙子も、すぐにそう思うようになる」
 笙子の手から、少しだけ力が抜けた。私はその隙を見逃さず、両脚の間に指を入れた。
「は……んっ」
 脚が閉じられ、私の手を挟み込む。
 だけどその時にはもう、私の指先は目的地に達していた。
「や……あぁっ……だめ……っ」
 笙子が、両手で顔を覆う。
 指先に、潤いが感じられる。
 そこは、濡れていた。
 溢れ出すほどに。
 人差し指と薬指で割れ目を軽く広げ、中指を滑り込ませる。
 これまで、他の女の子のこんな部分を触ったことはないが、自分と比べるとずいぶん未発達な印象を受けた。
 それでも、ちゃんと濡れている。
 これまでのキスと胸への愛撫で、ちゃんと感じていたのだ。
 少し嬉しかった。
 私の気持ちは、決して独りよがりではないとわかったから。
「笙子……、濡れてるよ」
「やぁ……」
 耳元でささやくと、笙子は顔を隠したまま、いやいやと首を振った。
 恥ずかしがるとわかっていて言うんだから、私も少し性格が悪い。
 割れ目に沿って、ゆっくりと中指を滑らせた。
 笙子が身体を固くする。
 きゅっと閉じた唇から、小さな声が漏れた。
 私は指を動かし続ける。
 笙子と出会う以前は、もちろん同性とこんなことをしたことはない。だから、最初は少し戸惑っていた。
 どんな風にすればよいのだろう。どうすれば、気持ちよくしてあげられるのだろう。
 だけど、難しく考えることはないのだと、すぐに気付いた。
 自分がこれまで付き合ってきた男たちにされたことのうち、気持ちよかったこと、もっとして欲しいと思ったことを、笙子にもしてあげればいいのだ、と。
 乱暴にしてはいけない。相手は、数日前にバージンを失ったばかりの、しかも中学三年生。
 そぅっと、優しく、指の腹で触れる。
 割れ目の端から端まで、ゆっくりと指を滑らせる。
 十分に濡れているから、痛みを感じることはあるまい。
「あぁ……、あぁ……」
 指の動きに同調して、笙子は声をあげた。
 時々、身体がぴくんと震える。
 指を動かす範囲を少しずつ狭くしていって、やがてある一点で止めた。
 笙子の体内へと続く、入口。
 指先を少しだけ、潜り込ませてみた。ほんの、一センチくらい。
「あぁっ、ひゃぁぁっ!」
 笙子が一際大きな声をあげた。感じたというよりも、驚いたのだろう。
 そこは、私の指をたった一度受け入れたことがあるだけの場所。まだまだ、異物を挿入されることに慣れていない場所。
 中指を第一関節まで入れたところで、それ以上奥への侵入を止めた。ここから先は、ゆっくりと少しずつ慣らしていかなければならない。
 笙子の中は熱く潤っていた。
 指先が、きゅうっと締めつけられる。
「ん……ふぅ……ん」
「痛くない?」
 一応、訊いてみた。もっとも「痛い」と答えたとしても止めるつもりはなかった。少し、進行を遅らせるだけのこと。
 これは、女の子なら誰もが一度は通る道なのだ。それを越えたところに、本当の悦びがある。
 それに、苦痛に歪む笙子の顔はとても煽情的だ。もっと見ていたい。
 私って、少しサドっ気があるのだろうか? いいや。きっと、この子の表情がサド心を呼び起こすんだ。
 ゆっくりと、中指を奥へ進めていく。膣壁はヌルヌルと濡れていて抵抗感はさほどないが、第二関節くらいまで入ると全体で締め付けてくるのを感じる。
「あぁ……んん……あ……」
 眉間にしわを寄せて、笙子が切ない声を漏らす。
 一気に奥まで指を入れるのは止めて、一度指先まで引き抜いた。
 それからまた、ゆっくりと挿入していく。
 それを、何度も繰り返す。
 私の指全体、笙子の膣全体に潤滑油を行き渡らせるように。
「はぁっ……あっ……あぁんっ……」
 指の動きに合わせて、か細い声が上がる。
「私の指が入ってるの……わかる?」
「は……ぁい……ぁ、ふぅ……あぁん!」
 抜き差しの一往復ごとに、指を少しずつ奥へと入れていく。
 それに従って、笙子の声が高くなってゆく。
「あぁっ……あぁっ……あ……んっ! あぁっ、あぁっ!」
「気持ちいい? 痛くない?」
「ん……だ、大丈夫……です……んぁっ!」
 嘘だな、と直感する。まだ二度目だし、この様子では、まったく痛くないわけはない。
 引き抜いた指に、ほんの少し血が付いていた。
 でも、私は指の動きを止めなかった。
 私も、そして笙子も、それを望んではない。
 痛いのは確かだろうけど、それ以上に快感を覚えているはずだ。痛いけど気持ちいいというこの感覚、私にも覚えがある。
「はぁ……あぁ……あん、……あんっ! あぁぁぁっ!」
 指を動かすたびに、笙子のそこはくちゅくちゅと湿った音を立てる。
 いつしか私の中指は、根元まで飲み込まれていた。
 一番深いところに辿り着いて、つるりとした感触の子宮口が指に触れる。
 やっぱり、まだ、きつい。指全体がぴったりと締めつけられている。
 私は指の抜き差しを止め、中で回すように動かした。
「あんっ、あんっ、あぁぁんっ! あぁっ!」
「気持ち、いい?」
 そんな私の質問は、笙子の耳には届いていないようだった。絶え間ない声を上げながら、頭を左右に振っている。
 まだ、痛いはずだ。だけど確かに、感じてもいる。
 バージンを失ったばかりの、まだ中学生の女の子が、私の指に感じている。
 私の心は、背徳的な快感に震えていた。
 もっともっと、感じさせたい。
 もっともっと、笙子を乱れさせたい。
(初心者には……指よりも、舌だよな……)
 指を入れたまま、私は身体の位置を下へずらしていった。
 私の指が与える快感に溺れている笙子は、そんな動きにはまったく気付かずに、シーツを掴んで鼻にかかった声を上げている。
 そんな笙子の不意を衝いていきなり、一番敏感な部分に舌を這わせた。
「ひゃうっ? あぁっ! あぁぁぁっ!」
 笙子は驚きの声をあげると同時に、身体を仰け反らせた。
 両手が、私の頭に触れる。
「やだっ! そんな……あぁっ! そんなところ……やぁぁっ!」
 そんな抗議の声と、髪の毛を掴んだ手を無視して、私はクリトリスを舌先で転がした。
「ひゃぁぁっ! やぁぁっっっん! あんっ! あぁんっ! んんーっ!」
 笙子の身体が強張る。
 膣壁がきゅっと締まって、指を締め付ける。
 太股が、私の頭を挟んで小さく震えている。
 私は、舌先での愛撫を続けた。
 これをされるのが大好きなのだ。
 微かに触れるか触れないかという、舌先でくすぐられる感触。同時に指を入れられて、身体の内と外から与えられる快感。
 笙子にとっても、クリトリスからの快感が、挿入の痛みを忘れさせてくれるだろう。
「あぁぁっ、やぁっ! だ……めぇっ、もう……っ! あぁぁっ! あぁぁっ!」
 しつこいくらいに、舐め続ける。
 五分。十分。
 休みなく、いつまでも。
「ひっぃぃ……、はぁぁぁ……あぁ……んっ! んっくぅ……や……ぁ……」
 いつしか笙子の声は、悲鳴から泣き声へと変わっていく。
 絶え間なく声を上げ続けて、やがてその声がかすれはじめる頃。
「はぁっ! あぁぁぁっっっ! あぁぁーっっ!」
 その小さな身体をひときわ大きく震わせて。
 笙子は、生まれて初めてのオルガスムスに達していた。



「はぁ……、はぁ……、はぁ……はぁ……」
 笙子はしばらく、荒い呼吸を繰り返していた。
 全身汗びっしょりで、胸が大きく上下している。
 私は腕枕してやりながら、そんな様子を見つめていた。
「可愛かった。大好きだよ、笙子」
 やがて呼吸も落ちついてきた頃、人差し指で笙子の鼻をつついて言った。笙子は、その指先にちゅっとキスをする。
「…………わたしも、沙紀さんのこと……。その……好き、です。最初に、助けてもらったときから……」 
「なーんだ。じゃあ私たちは両想い。最初の時も合意の上だったんじゃない」
 気にする必要はなかったんだ、と一安心。だけど笙子は唇を尖らせる。
「それは違いますよ。あの時は私、全然、そんなつもりじゃなくて……。心の準備もできていなかったんですから」
「じゃあ、今日は心の準備ができてたの?」
「……実は、少し」
「どうして?」
「沙紀さんが帰ってくる少し前、電話があったんですよ。静内さんから」
 意外な名前が出てきて、私は驚いて上体を起こした。真上から、笙子の顔を覗き込む。
「彩樹が? なんて?」
「今夜あたり、沙紀さんが襲いかかってくるはずだから、心の準備をしておけって」
 そう言ってくすくすと笑う。
「その通りでしたね」
「あ、あいつぅ……」
 彩樹の奴、こうなることを見越して、私にあんなことを言ったのか。
 でも、そのおかげで笙子と結ばれたのだといえなくもない。だからといって礼を言う気にはなれなかったが。
「沙紀さんって、実はやっぱり女の人が好きなんじゃないですか?」
「同性にこんな気持ちになったのは、笙子が初めてだよ」
 そういって、もう一度キスをする。軽く触れて、一度離れて。それからもう一度しっかりと唇を重ね、舌を絡めあう。同時に、手が笙子の下腹部をまさぐる。
 笙子はくすぐったそうに身体をよじった。
「やぁ……沙紀さんのエッチ……」
「でも、気持ちよかったでしょ。もう一回、する?」
「え……? えっと……その……」
 笙子は真っ赤になって、だけど小さくうなずいた。
 もちろん私は、二度目もうんと時間をかけて、また笙子が泣き出すまで愛撫を続けた。
 それが終わった時、時計は既に真夜中を過ぎていて、私たちは暑さも気にせずに、しっかりと抱き合って眠りについた。

続く

前章へ戻る



目次に戻る

(C)Copyright 2000 Takayuki Yamane All Rights Reserved.