28


「え?」
 聖さんは驚いた顔で訊き返した。
「だから、その……あたしが『攻め』って、どう?」
「ハトが? してくれるの? いいの?」
「……ん」
 こくん、とうなずいた。
 これまであたしは、いつもされる側だった。
 公美さんにも、聖さんにも。
 触られたり舐められたり、それはすごく気持ちよくて感じてしまう。
 だから、好きな人にも気持ちよくなって欲しい。気持ちよくしてあげたい。
 そう、思った。
 聖さんにも、あたしの愛撫で感じてもらいたい。慣れないあたしがどこまでできるか、ちょっと不安ではあるけれど。
「嬉しい、ハト」
「で、でも、したことないからさ。気持ちよくしてあげられるかわかんないけど、あんまり期待しないでね。それでもよければ……」
「ハトにしてもらえる、って考えただけでいっちゃいそうだよ、私」
「……頑張るから」
 くすっと笑って、聖さんが仰向けになる。その上にあたしが覆い被さる。いつもとは逆の位置関係に違和感を覚えた。
 期待に満ちた瞳が、あたしを見つめている。嬉しそうに。誘うように。
 ゆっくりと顔を近づけていって、唇を重ねた。自分から進んで舌を入れる。聖さんの舌が絡みついてくる。
 恐る恐る、胸に手をやった。聖さんの胸もかなり大きくて、小さなあたしの手には余るくらいだ。聖さんは長身だからあまり目立たないけれど……それとも目立たない理由は、いつも、小柄なのに胸が大きいあたしの傍にいるからだろうか。
 そうっと揉んでみる。ひとりエッチで自分の胸を触るのとは、やっぱり微妙に感触が違う。
 しばらくその感触を楽しんでから、右の胸に唇を押しつけた。
 乳首を口に含む。吸う。唇で噛む。
 その小さな突起は、すぐにつんと固く尖ってきた。そのことを確認してから、軽く、うんと軽く歯を立てる。
「あ……、んっ」
 聖さんの唇から微かな声が漏れる。甘い声。切ない声。
 聞いていると、胸がドキドキする。もっと聞きたくなる。
 右胸への舌と唇による愛撫を続けながら、左胸に置いた手も動かす。
 少しずつ、聖さんの声が大きくなってくる。あたしは、お母さんのおっぱいを飲む赤ん坊のように、熱心に吸い続けた。
 ちらりと聖さんの顔を見ると、目を閉じて、眉間にしわを寄せて、切なげに口を半開きにしている。
 あたしの拙い愛撫で感じてくれている。
 そのことが、とても嬉しかった。
 もっと、もっと、してあげたい。
 もっと、もっと、感じてもらいたい。
 胸を愛撫していた左手を、ゆっくりと下へ滑らせていった。小さな茂みの向こうにあるぬかるみは、もうとろとろにとろけていて、指先で触れただけで聖さんは声を上げた。
「気持ち……いい?」
「いい……イイ……指、入れて……」
「ん……」
 熱く熔けた女の子の中心に、中指をもぐり込ませる。そこは柔らかなカスタードクリームみたいな感触で、簡単にあたしの指を呑み込んでいった。
 柔らかくて熱い、内臓の感触。自分以外のそこを触るのは初めてだ。ひとりエッチの時よりも、指はスムーズに入っていく。
 中指が根元まで胎内に埋まっている。指先が、つるんとした固い感触の子宮口に触れた。
「聖さんって……バージンじゃない……よね?」
「……うん」
「いつ?」
「中二」
「早いね」
 少しびっくりした。でも、聖さんならきっと、中等部の頃から大人っぽかったのだろう。
 あたしは指を優しく抜き差ししながら質問を続けた。
「相手は?」
「……」
 ここまでくると、さすがの聖さんも恥ずかしそうに口をつぐんでしまった。指の動きを少し乱暴にする。
「あっ、あぁっ!」
「相手は?」
「……近所に住んでた、女子大生。あ……小さい頃から、実の妹みたいに可愛がってくれて……」
「その人とは、どうなったの?」
 あたしが知らなかった、聖さんの初めての人。だけど、今の聖さんに特定の恋人がいるなんて話は聞いたことがない。
「大学卒業してすぐに、男と結婚した。……あれはちょっと、裏切られた気分だったな」
「……ふぅん」
 みんな、いろいろな過去があるんだ。聖さんも、笙子も、そして公美さんも。
「その後も、何人かと付き合ったり、セックスしたりしたけどね……あ、でも、今はハトのことが一番好きだよ!」
 慌ててフォローする聖さんの様子に、思わずくすっと笑ってしまう。
「あたしが一番ってことは、二番、三番がいるんだ?」
「あ、いや……」
「もぉ、聖さんってば浮気者」
 わざと怒ったように膨れて、中指に加えて人差し指も中に入れて激しく動かした。
「あぁっ! あぁぁ――っ! でも、あ、ハトが……ダントツトップだからぁっ!」
 必死に言い訳する聖さん。でも、そんな聖さんの気持ちは嬉しい。
 尋問のために少し乱暴にしていた指の動きを、また優しくする。
「あたし、聖さんのそーゆーところも嫌いじゃないよ?」
 あたしは身体の位置をずらして、指の抽送を続けながら、その部分に唇を押しつけた。舌を伸ばして、舌先でクリトリスをつつく。
「あっ……あぁっ……んっ!」
 聖さんは、感じてくれている。すごく濡れていて、指を抜き差しするのに合わせて溢れだしてくる。
 ふと、悪戯を思いついた。
 溢れてお尻の方まで流れ出している蜜を、薬指にたっぷりと塗りつけて、その指でお尻の穴をくすぐった。聖さんの身体がびくっと震える。
 指先を押しつけて、小さな円を描くような動きで中に押し込んでいく。
「やっ……そんなとこっ……あっ、んんんっ!」
 何をされているのか気づいた聖さんが、身体を強張らせる。第一関節までもぐり込んだ薬指が、ぎゅうっと締め付けられた。硬いゴムのような弾力で、あたしの指を追い返そうと抵抗している。それでもあたしは、溢れるほどの潤滑液の助けを借りて少しずつ指を奥へ挿れていった。
「や……痛……ぁ、は……ぁあっ!」
 ぎゅう、ぎゅう。
 断続的に、お尻の穴が収縮を繰り返している。力が弛んだ一瞬の隙に、指をミリ単位で進めていく。公美さんに何度もされていることだから、その辺の加減はわかっているつもりだ。
 さすがの聖さんも、お尻は慣れていないみたいだった。恥ずかしそうに、両手で顔を覆っている。それでも、本気で嫌がってはいないようだ。
 薬指も根元近くまで入ったところで、小さく動かしてみた。前に入れたままの中指や人差し指も一緒に。
 薄い肉壁を隔てて、それぞれの指が動いているのがわかる。聖さんは悲鳴のような声を上げ、身体がベッドの上で弾んでいる。
 あたしは少しずつ、指の動きを速くしていった。第一関節まで引き抜いて、また奥まで挿入して、また引き抜いて。
「あ――っ! あぁ――っ!」
 聖さんの悲鳴は止むことがない。激しく身体を捩って、自分から腰をくねらせている。
 前も、後ろも、あたしの指を締め付けてくる。溢れだした蜜が、じゅぶじゅぶと泡立っている。
「あぁぁっ! イクッ! イクぅっ!」
「いって。あたしの指でいって!」
 残像が残るほどのスピードで指を動かす。
「あっ、あぁぁ――――っっ!」
 膣壁が、小刻みな収縮を繰り返す。
 聖さんの身体は大きく仰け反って、ベッドの上で弾んだ。



 聖さんは虚ろな瞳で天井を見上げ、荒い息をしている。
 汗ばんだ胸が、大きく上下している。
 あたしは俯せになって頬杖をついて、そんな聖さんを見おろしていた。
 初めて知った。
 自分の愛撫で相手が――好きな人が感じてくれるのって、すごく楽しくて、嬉しい。
 感じている聖さんって、すごく綺麗で、可愛いかった。普段はすごく格好いい聖さんなのに、あたしの愛撫で感じてくれていた時は、とても可愛かった。
 もっとしてあげたい、もっと感じさせたいって。そう思った。
 公美さんや聖さんにされていた時、あたしもこんな風だったのだろうか。
 今なら、さも楽しそうにあたしを苛めていた公美さんの気持ちも、少しわかるような気がした。
「ふわぁ……すっごく、よかった……」
 ようやく回復してきた聖さんが、ごろりと転がって俯せになった。隣に寝ていたあたしと密着する体勢で頬ずりしてくる。
「ハトって上手だね」
「え、そ、そぉ?」
 こんなことで褒められても、嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ち。
「初めてなんて思えないよ。すごいこと知ってるし。お尻があんなに感じるなんて知らなかったな」
「あ、あの……」
 あたしは赤面した。お尻……は、やりすぎだったかもしれない。公美さんが当たり前のようにしていたから、自分がそれで感じてしまっていたから、つい聖さんにもしてしまった。
「公美さんに教わったの?」
「――っ!」
 なにげない口調で言われて、一瞬息が止まった。
「従姉なんて嘘でしょ? あの人も、ハトのこと好きなんだ」
「ど、ど、どーしてっ?」
 あたしはどもりながら訊き返した。どうして知っているのだろう。
「同類はね、見ればわかる」
「わ、わかるのっ?」
「……なんてね、実は本人に聞いたんだ」
「あの、お喋りが!」
 思わず、枕を力いっぱい殴りつけた。こんな恥ずかしいこと、よりによって聖さんに知られてしまうなんて。
「学園祭の時にね」
 ああ、やっぱりあの時、二人きりにするんじゃなかった。今さら言っても後の祭りだけど。
「学園祭の時にさ、キス、しようとしたんだ」
「公美さんが?」
 やっぱり心配していた通り、聖さんに手を出していたんだ。あの浮気者が。
 ところが。
「ううん、私が」
 聖さんが首を横に振る。
「素敵な人だからさ、なんとなく、ね」
 そう言って、目を細めて笑っている。
「な……なんとなく、でキスする人なの? 聖さんってば」
「……まあ、相手によっては」
 あたしが詰問するような口調になっていたためか、いくぶんばつが悪そうに答える。
 ちょっとショックだった。
 そりゃあ聖さんは、一見すごく軽い感じの人だけど、それはポーズで、ふざけているだけだと思っていたのに。
 実は本当に軽い人だったなんて。
「だから、人気のない第二校舎に連れて行ってね、並んで話をしていて、隙を見てチュッとしようかと」
「……聖さんって」
「でもね、断られちゃった」
「え?」
 あの公美さんが、そんな、鴨がネギと豆腐と土鍋を背負ってきたようなシチュエーションを見逃すとは思えないけれど。
「公美さんてば『今は美鳩ちゃん一筋だから』ってさ。ハトを陥とすまでは、絶対に浮気しないって、願掛けてるんだって」
「ウソ……でしょ?」
「ホント」
「ホントに?」
「ホント」
 あたしは何度も念を押した。
 こんなこと、にわかには信じられない。
 ちょっとどころではなくショックだった。
 聖さんが、ちょっと気に入った相手にすぐちょっかいを出す浮気な性格で、公美さんがあたし一筋の一途な人だったなんて。
 もう、わけがわからない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「それで……、公美さんからどこまで聞いたの?」
「ぜ、ん、ぶ」
「全部って……」
「毎朝、電車の中で何をやってるかとか」
「あぅぅ〜」
 あたしは頭を抱えて呻いた。
 よりによって、一番知られたくないことを。自分の犯罪歴を暴露するなんて、公美さんも何を考えているのだろう。
「ハトが最近艶っぽくなってきたのは、そのせいだったのか」
 聖さんは納得顔でうなずいている。
「いや、あの……」
「最近さぁ、登校してきたハトが、妙に可愛いんだよね。目が潤んでいて、頬が紅潮して。まるで私を誘惑してるみたいで、何度、衝動的に押し倒しそうになったことか」
「あぅぅ……」
「ま、あの人ならハトを任せてもいいか。素敵な人だもん」
「な……、勝手に決めつけないでよ!」
 聖さんが勝手に話を進めていくので、あたしは大声を上げた。
「なんであんな奴……。あたしにだって、今年中にちゃんとしたかっこいいカレシを作ろうっていう野望があるんだから」
 このまま、公美さんの世界に引きずり込まれちゃいけない。聖さんとならそんな関係になってもいいかなって、ちょっと思ってしまったけれど。それはともかく。
 やっぱりちゃんとした彼を作って、普通の健全な女子高生ライフを送るべきだと思う。この間のデートは体調不良で失敗したけれど、今度こそは。
 なのに聖さんってば。
「そりゃ無理でしょ」
 って鼻で笑い飛ばしてくれた。 
「どーして? あたしってそんなにイケてない? 自分じゃ、悪くないと思ってンだけど」
「そーじゃなくて」
 聖さんは人差し指の先で、あたしのおでこをつついた。
「男性恐怖症のハトちゃんが、いきなり彼氏を作ろうったって無理でしょ?」
「え?」
 あたしは驚いて聖さんの顔を見た。いきなり、何を言い出すのだろう。
 男性恐怖症? あたしが?
 きょとんとしていると、聖さんも不思議そうな表情であたしを見た。
「まさかハト、自分で気づいてないの?」
「え……う、うん」
「この間のデートは何? あんた、吐いてたそうじゃない」
「あれはたまたま体調が悪くて……」
 あたしの弁解に、聖さんはどこか呆れたような、そして同情するような表情を浮かべる。
「あのさぁ……。ハトってば、道歩いてて男の人とすれ違っただけで、端から見ていてはっきりわかるくらい身体が強張ってるよ?」
「そんな……ウソでしょ?」
「自分で意識してないんなら重傷だわ。何か、イヤな経験でもあるの?」
「さあ……別に心当たりはない、けど」
 確かにあたしは、男性に対して免疫はない。中学からずっと、私立の女子校なのだから。だけどそれをいったら、中等部から持ち上がりのクラスメイトの約半数も条件は同じはず。
 だとすると、父親がいないせいだろうか。両親が離婚したのは小学生高学年の時。それ以降はずっと、身近に男性がいなかったことになる。そのため、特に男性に免疫がないのかもしれない。
 男性恐怖症だなんて、考えもしなかった。だけど、言われてみれば思い当たるフシもないわけではない。
 この間のデートもそうだし、公美さんに触られるのは平気……というかすごく気持ちいいのに、男の人の痴漢に遭うとものすごく具合が悪くなる。痴漢に触られるのが気持ち悪いのは当然だと思っていたけれど、公美さんに触られることに嫌悪感を感じない以上、あたしが駄目なのは「痴漢」ではなくて「男性」なのかもしれない。
「ま、いいか。理由なんかどうだって」
 考え込んでいるあたしに、聖さんが抱きついてくる。そのまま、ほっぺにキスされた。
「男性恐怖症のおかげで、ハトはこんなに可愛いのに彼氏がいなくて、私とこうしていられるんだから。あーあ、公美さんに取られるのはやっぱり悔しいなぁ。この先何年も傍にいられないから、仕方ないんだけど」
 聖さんはあたしをぎゅうっと抱きしめて、顔を胸に埋めるように擦りつけてくる。
「ね、私が帰ってきたら、またデートしようね。たとえその時公美さんとラブラブでもさ、ちょっとくらい浮気したっていいでしょ?」
「ん……ま、ね」
 聖さんってば、相変わらず軽いノリ。でも、変に深刻になるよりも、この方が気楽でいい。
「その時には、本場仕込みのテクニックでヒィヒィ言わせちゃうから」
「……なんの本場なんだか」
 二人で顔を見合わせて、くすくすと笑う。
 あたしを抱きしめていた手が、お尻の方へと下りてくる。
 そのまま、なし崩し的に第三ラウンドが始まってしまった。聖さんは一回目以上に激しくあたしを攻めたてて、終わった後には二人とも疲れ切っていて、裸のまま抱き合って昼近くまで眠っていた。



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