■ | 主催 | : | 北海道自転車競技連盟 |
■ | 開催場所 | : | 豊富町大規模草地、特設コース |
■ | 車種 | : | ロード |
■ | 概要 | : | 公道ロードレース |
■ | クラス | : | S-2(5周回、100km) |
困ったことになった、というのが正直な感想だった。
受付を済ませてプログラムを見ると、もっとも積極的な走りをするだろうと期待していた尚志学園のK坂選手(J1クラス)がエントリーしていない。
その上、大滝の逃げ仲間だった北大のY川選手は地域別へのエントリーのためS1クラス扱い。去年の逃げ仲間A藤さんはトレーニング中の怪我でDNSという状況。
集団から逃げるのが私のレーススタイルとはいえ、100kmの長丁場で単独逃げなどできるわけがない。
誰と一緒に行くか、誰が一緒に逃げてくれるか……が重要になるのだが、一緒に逃げたことのある選手がいないので展開が読めなかった。
ウォーミングアップは30分ほどと軽めに済ます。
スタート直後から本格的な登りが始まる大滝と違い、サロベツのコース前半はぬるいアップダウンと平坦区間、S2なら序盤のペースもさほど上がらないはずなので、本格的なアップダウンが始まるまでの10km弱をアップの仕上げに使えばいい。それよりも体力を温存しておく方が重要だ。
大滝や4耐ではスタート前に少し食べ過ぎた感があったので、今回は早めに朝食を済ませ、その後の補給も最小限に抑えておく。
スタート30分前になってヴァーム缶とアミノバイタルPROを摂取。
ボトルは2本用意した。。
1本は保冷ボトルにいつものグリコーゲンリキッドとメダリストのブレンド。氷を一杯に詰めてできるだけ長時間低温を保てるようにする。
もう1本はラージボトルに氷水。こちらは飲むよりも身体にかける方が主目的だ。
補給食はパワージェル2個、アミノバイタル・スーパースポーツ1個、そしてメダリスト170ml用1包。
準備は整った。
8時35分、定刻通りにスタート。
スタート位置は最前列だったが、特に慌てずにまったりと走り始める。最初の登りが始まるまではウォーミングアップだ。
序盤はサイクルプラザのK野選手が中心となって先頭を引き、道道の平坦区間に入って徐々に隊列が整っていく。
スタートから約8km、最初の登りが現れる。
探りを入れるために、ここで前に出て少しペースを上げてみる。
一応、スタート前に考えていた作戦があった。
コース中盤の三つの登り、最初のふたつでペースを上げて集団を縦に伸ばせば、やる気と脚のある選手は前に出てくるだろう。そのタイミングで三つ目の、コース最長の登りでアタックすれば、集団の後ろ半分を切り落とせるかもしれない。上手くいけば数人で逃げることができるかもしれない。
しかし、そうそう目論見通りには行かなかった。
S4クラスだった昨年や、本格的な登坂の大滝とは事情が違う。S2クラスともなると、1kmに満たないサロベツの登りで1周目から遅れる選手はいない。多少ペースを上げたくらいでは集団はばらけない。
本気のアタックをすれば差をつけられるかもしれないが、1周目から1人で飛び出して5周を逃げ切れるはずもない。
さて、どうしたものだろう。
大滝があまりにも簡単に逃げを決められたので、甘く見ていた部分があったようだ。このコースで100kmの長丁場では、簡単に逃げて勝つというわけにはいかないらしい。
かといって、仲良く集団で走って5周目勝負という展開は最悪だ。脚を残した状態でのスプリント勝負になれば勝ち目はない。
全員が力を使い果たした状態で、燃えカスでの最後のヒルスプリント勝負というのが私向きの展開なのだ。
昨年はS2クラスだけが極端にペースが遅かった。今年もあんなペースだったら5周目まで脚を残す選手が多いだろう。
それでなくても大滝、サロベツ、藻岩では「前年同クラスの優勝タイムを上回ること」を目標にしているのだ。まずはアベレージを他クラス並みの36km/h超に引き上げなければならない。
大切なのは、集団の中の選手を休ませないこと。他人に楽をさせては勝機はない。
1回2回のアタックで集団を崩すのが難しいなら、持久戦に持ち込むしかない。5周がかりでふるいにかけ、消耗させていくしかない。
コース後半のアップダウン区間では、登りでアタックというほどではないが積極的にペースを上げる。
もちろん脱落者は出ないが、これを続けていれば少しずつ脚を消耗させられるだろう。運がよければ集団から逃げ出すチャンスが生まれるかもしれない。
他にも北大生など、やる気のある選手数名が登りでペースを上げるが、誰も集団から大きく飛び出すまでには至らない。
ペースを上げた選手には必ずついていってあわよくば逃げを決めようと思っていたが、それがかえってアタックを潰す形になってしまったかもしれない。しかし集団が活性化してペースが上がったので、本来の目的は達成したといえる。
2周目も同じような展開でレースは進んだ。
集団が落ち着きそうになるたびに、前に出て軽くペースを上げる。短い登りはほとんどダンシングだ。
集団から逃げ出したがっている選手は数名いるようだが、まだ本気のアタックをかける者はいない。
脱落者も出た様子がないまま3周目に入る。
中盤の登りで北大生と2人で飛び出しかけたが、やっぱりすぐ集団に吸収されてしまう。逃げを見逃そうなどという気はさらさらないようで、みんな脚もまだまだ残している。
この周回の終わりにはホットスポットが設定されているので、狙っている選手は最後の下りで一気にペースを上げる。そうなると狙っていない選手も、置いていかれないためにペースアップするしかない。
私はもちろん本気でねらっていたのだが、さすがに瞬発力のある選手には敵わず、4〜5位くらいで通過。
このままペースを上げたらスプリントで消耗した選手が千切れるかも……とも考えたが、消耗しているのはこちらも同じなので無理はしない。
ゲロルシュタイナーのジャージを着た選手がしばらく前を引いていたが、これも間もなく集団に追いつかれた。
4周目の平坦区間、これまでまったく見かけなかった選手が前に出てきた。
そのまま先頭に出るのかと思いきや、2番手につけたままローテーションに参加しようともしない。
隣に行って怒鳴りつけてやろうと考えたが、それを実行に移す前に登り区間が始まって姿を消してしまったので、結局なにがしたかったのかは謎である。
一瞬でも見せ場を作りたかったのなら強引に飛び出すべきだし、集団後方にいるのがいやだったのなら先頭交代するべきだし、先頭に出られない・出る気もないくせに番手につけていればなんとかなると思っていたなら「舐めるな」としか言いようがない。
中盤の長い登りでは隊列に乱れが生じたのか、下り終わったところで4人が集団から飛び出した形になっていた。
後ろを振り返ると、100m近い差が開いている。
この逃げは決まるかもしれない……そんな期待が膨らんでくる。4人で協力してペースを上げる。
しかしここは集団が危機感を持って追ってきたようで、アップダウン区間に入る前に吸収されてしまった。
これはダメかもしれないな……そんな思いが頭をよぎる。
結局、集団はばらけずにこのままゴールまで行くのかもしれない。
いや、それはダメだ。こちらは登りでペースアップするためにかなり脚を使っている。集団ゴールになったら勝つどころか入賞すら危うい。
アップダウン区間の登りではダンシングを続ける。繰り返していれば、これがボディブローのように効いてくるはず。
さすがに苦しい。
しかし、こちらが苦しい時は相手も苦しいはず、と言い聞かせる。
攣りそうになっている左のふくらはぎにボトルの水をかけて冷やす。残った水を頭と背中にかけ、空になったボトルを5周目に入るところで捨てる。
飲用のボトルの中身はまだ十分残っているから、サポートを受ける必要はない。
いよいよあと1周、ジャンが鳴る。
アティックのT田選手が少し前に出る形になっていたのでペースを上げて追いつくと、いつの間にか集団とは少し距離が開いていた。
こちらが極端にペースアップをしたわけでもないし、落車等のトラブルがあった様子もないが、いったいどうしたのだろう。
ここに来てようやくボディブローが効いてきたのだろうか。
理由はなんでもいい。
とにかくこれはチャンス――たぶん最後のチャンスだ。
T田選手が積極的に前を引いているが、それに甘えて休んではいられない。なんとしても集団から逃げ切らなければならない。
短い間隔で先頭交代を繰り返し、道道の平坦区間でもハイペースを維持する。
T田選手はまるでペースが落ちない。私よりずっと年上で、前の周回もかなり先頭を引いていたはずなのに見上げたスタミナだ。さすがにブルベで200km、300kmを平気で走っているだけのことはある。
こちらも力を振り絞ってそのペースを保つ。
集団は追いついてこないまま、登り区間が始まった。
最初の短い登りは無難にクリアしたT田選手だが、ふたつ目の登りで遅れ始める。続く下りで追いついてきたものの、登りはかなり辛そうだ。
できればもう少し二人で協力して逃げたかったが、登りで待つわけにはいかない。私が集団との差を広げられる場所は登りしかないのだから。
中盤にある最長の登りで力を振り絞る。
T田選手と協力して平坦区間をいいペースでこなしたとはいえ、やはり集団との差は詰まっているはず。ここで少しでもリードを広げて、最後のアップダウン区間まで逃げ切らなければならない。
さすがにもう脚が限界に近い。坂の頂上までペースを維持することができない。それでも、前を走っているS1の選手を目標にして力を絞り出す。
坂を下り直線区間を抜け、左折してアップダウン区間に入るところで、逃げ始めてから初めて後ろを振り返った。
集団との距離を確認するのが怖くて、後ろを見ないようにしていたのだ。しかしいつまでも目を背けてはいられない。
T田選手はさほど遅れておらず、まだすぐ後ろにいた。
その向こう、集団が視界に入る。
距離は200〜300mというところだろうか。安全圏にはほど遠いが、すぐに追いつかれることもないという微妙な差。
ここから先は集団のメリットもそれほど大きくはないアップダウン区間。逃げ切れる望みがないわけではない。
しかし、脚はもう限界に近い。今度は右脚のふくらはぎが攣ってペースを上げられない。長距離トレーニングが十分にできなかったツケが出てしまっている。
下りで脚を止めてストレッチをしている間に、T田選手が追いついてくる。
登りでは必死のダンシング。T田選手が少し遅れる。
下り区間で攣った筋肉をほぐす。T田選手が追いついてくる。
小刻みなアップダウン。そんな展開を何度も繰り返す。
最後の左折ポイントを過ぎたところで、もう一度後ろを振り返る。
集団との差は先刻より少し縮まっているようだが、思っていたほどではない。集団から飛び出してくる選手もいない。
疲れきっていたが、今だけは綺麗なフォームを心がけてダンシングで丘を登る。
ここは見晴らしのいい区間で、集団からもこちらはよく見えているはず。無様な姿を見せるわけにはいかない。
4周目まで積極的に集団前方を走り、その後15km以上を逃げていながらまだ力強く坂を登っている――その姿を見せつければ、追う側の気力も萎えてくるはず。誰も飛び出してこないということは、集団の中の選手も苦しいのだ。集団の選手の何割かに「これは追いつけない」と思わせられれば、追撃のペースは鈍る。
ゴールまであと3kmちょっと。大丈夫、集団からは逃げ切れる。
残る相手はT田選手だけ。しかしこれが手強い。
登りで千切れそうになりながらもなんとか踏みとどまり、下り〜平坦区間ではしっかり追いついてくる。まったく、恐ろしいほどのスタミナだ。
最後の下りに入るところで、ついにT田選手が前に出た。
こちらは追い切れない。
攣った脚でだましだまし走っている状態でも、不思議と登りは走れる。しかし下りの全開スプリントなどできるはずもない。
差が広がっていく。
下り終わった時点での差が5m以内なら、ゴール前の登りで確実に逆転できる。5〜10mならかなり微妙な勝負になる。しかし10m以上の差をひっくり返すのは容易なことではない。
それでも追うしかない。
最後の最後の力を振り絞ってヒルスプリント。
差が詰まる。
しかし追い切れない。追いつけない。
結局、2秒の差を残したままゴールラインを越えた。
……また、勝てなかった。
去年と同じような負け。
しかし、これは仕方がない。あの展開で、最後の下りに入る前に勝負を決められなかった時点で負けなのだ。
今はもう、そんなことはどうでもいい。
今いちばん欲しいものはパオパオの中瓶……ではなく、クーラーの中で冷やしておいた黒ヱビス。
練習不足は体調管理で補おうと、この2週間は禁酒していたのだ。ゴールしたら真っ先にするべきことは、キンキンに冷えたビールを浴びるように飲むこと。
勝利の美酒ではなくても、2週間ぶりの黒ヱビスはやっぱり美味かった。
しかし、それではいけないのかもしれない。
「負けた後の酒なんてマズくて飲んでいられない」というくらいの性格だったら、2年連続でこんな詰めの甘いレースをすることもなかったのだろう。
ということで、サロベツ100マイルロードは去年のS4クラスに引き続き2位。タイムは2時間44分11秒。集団とは20秒ほどの差。
今シーズンはオーンズ、大滝に続いて3度目の2位。
毎回いい走りはしているのですが、どうにも詰めが甘いですねー。
しかし、これでランキングポイントは210を超え、来期S1昇格は間違いありません。
S1になったら優勝なんて夢のまた夢。次の藻岩が最後のチャンスなので、きっちり勝っておきたいところです。