浮かれると同時に、正直なところ私はかなり驚いてもいた。
 一昨日の夜、突然電話をもらったのだ。「バレンタインデーに会いに行きます」と。
 今年の二月十四日は平日なのに。
 だけど笙子はもう推薦で進学が決まっているし、私も大学の卒業を間近に控えて特にすることはないから、平日も休日も関係ないといえなくもない。
 笙子が来る。
 笙子に会える。
 嬉しくて嬉しくて、昨夜はよく眠れなかった。
 たった半日しか一緒にいられないけれど、それは仕方がない。親には内緒で来ているのだから。
 地下鉄の駅から外に出ると、真っ白い街並みが広がっている。二月の札幌で、道路のアスファルトを目にする機会は少ない。
「滑るから気をつけて。私に掴まって」
 差しだした腕に、笙子がしがみついた。道路脇に人の背よりも堆く積み上げられた雪の山を見て、目を丸くしている。冬の北海道を訪れたのは初めての筈。
「どうせならもう何日か早く、雪祭りに合わせて来ればよかったのに」
 しかし笙子は首を振って応えた。
「やっぱりバレンタインデーですよ。沙紀さんに会いに来たんですから」
「そうだったね」
 笙子は北海道観光のために来たわけではない。ただ、私に会うためだけに来てくれたのだ。バレンタインのチョコレートを直接手渡す、そのためだけに日帰りで北海道まで来るあたりは、さすが大金持ちのお嬢様。



 笙子を迎えに行くとき、ヒーターをつけっぱなしにしておいたから、部屋は暖かかった。コートを脱ぐのももどかしく、私たちは抱き合った。
 今度こそ、しっかりと唇を重ねる。
 相手の身体にしっかりと腕を回して、身体を密着させて、情熱的に舌を絡め合う。
 久しぶりに味わう柔らかな唇の感触を、心ゆくまで堪能する。
 頭がぼぅっとなるくらいの激しいキスを数分間続けて、ようやく唇を離した。どちらからともなく、小さく苦笑する。
 顔が真っ赤なのは、寒い外を歩いてきたためではない。
「えっと、あの。沙紀さん、これ……」
 笙子は照れを隠すように、バッグの中から小さな包みを取り出した。綺麗にラッピングされてピンク色のリボンが結ばれている小箱は、いうまでもなくバレンタインのチョコレート。
「ありがとう」
 ベッドに腰掛けて、包みを開ける。思わず、笑いがこぼれた。
「これ、笙子の手作り?」
「どうしてわかったんです?」
「だって、形がいびつだもの」
「ひどーい!」
 笙子は唇を尖らせて、私の手から箱を取り上げた。
「そんなこと言うならあげません。これでも、一生懸命作ったんですよ」
「あはは、ごめんごめん。わかってるよ、初めてなんでしょう?」
 箱入り温室育ち、純粋培養のお嬢様。初めて会ったときは、料理をはじめ家事はほとんど何もできなかった。そんな笙子が、私のためにチョコレートを手作りしてくれた。外国製のどんな高級チョコだって、簡単に買えるくらいお金持ちなのに。
 その気持ちが、とても嬉しい。
「形はちょっといびつですけど……味は、大丈夫だと思うんですよ。……食べてもらえますか?」
「もちろん、喜んで」
 笙子は、チョコレートを一つ摘んで差しだした。あーんと開いた私の口に入れてくれる。
 チョコレートは、舌の上ですぅっと溶けていった。
「……いかがですか?」
「すごく、美味しい」
 クリームをたっぷりと使っているのか、とても舌触りがまろやかで、なんだか笙子らしい味って思えた。
「ホントにありがとう」
 頭を抱えるようにぎゅっと抱きしめて耳元でささやいて。それから私も、小さな包みを差しだした。
「私も一応、チョコレート用意したんだ。急だったんで、手作りとはいかなかったけど」
 一昨日の夜電話をもらって、昨日、三越のお菓子売り場で買ってきた。
「沙紀さんの愛がこもっているなら、なんだって嬉しいです」
「もちろん、愛情だけはたっぷりと」
 包みを開けながら、笙子は笑う。
「……可愛い。今までもらったチョコレートの中で、いちばん嬉しいです」
「もらったこと、あるの?」
「え? ええ、学校の先輩に、いくつか」
 後輩に……ではないところが笙子らしい。きっと、女子校のお姉さまたちに可愛がられているのだろう。
「沙紀さんはきっと、いっぱいもらうのでしょうね?」
「まあ……いくつかは」
 曖昧に言葉を濁す。体育会系の常というか、道場の後輩たちからもらうチョコレートは、毎年それなりの数になる。
「沙紀さんって、もてそうですもんね」
「そんなことないよ」
 やきもちを妬いたような口調が嬉しい。
「それより、食べてごらんよ。それとも、食べさせて欲しい?」
「あ……はい」
 先刻の私のように、こちらを見た笙子が顔を上げて口を小さく開く。だけど私は、摘んだチョコレートを直接その口には入れなかった。笙子と同じことをしても芸がない。
 自分の唇でチョコレートの端をくわえて、顔を近づける。私の意図を察した笙子は、頬をいっそう赤らめて反対側の端に口をつける。
 両側から、こりこりと小さな音を立ててチョコレートを食べていく。
 二人の顔が近付いていく。
 そして、唇が重なった。
 甘い味のする唇。
 どちらからともなく腕を伸ばして、相手を抱きしめた。そのまま、ベッドに倒れ込む。
「う……ぅん……ん……」
 もう一度、息もできないくらいに激しいキス。
 舌を伸ばして、相手の舌を舐める。
 チョコレート味の甘い唾液が混じり合う。
「ん……ふ……ぅん…………ふ」
 口の中のチョコレートの味がなくなるまで、その行為を続けた。身体を擦り付けるように、しっかりと抱き合って。
 そうして、お互いの気持ちを高めていく。チョコレートを渡すという、名目上のセレモニーは終わったのだから、もう次の段階に進んでもいいはずだ。
「あ……ふぅ……」
 唇が離れると、笙子は感極まったような吐息を漏らした。瞳が潤んでいる。
「……美味しかった?」
 耳元でささやくと、恥ずかしそうにこくんとうなずく。
「もうひとつ食べたい? それとも、もっと違うコトしたい?」
「え……? あの……えっと……」
 笙子が真っ赤になって、目をそらした。私はもう一度、耳に口を寄せる。
 耳たぶにキスをして、軽く咬んで、舌先でくすぐって。
 笙子の身体がぴくんと震える。
「服……脱ごうよ。裸になって、抱き合いたい。笙子の身体に、触りたい」
 素直な気持ちを口にした。笙子が相手なら、私はいくらでもエッチになれる。
 笙子が微かにうなずいたので、私は一度立ち上がって、ヒーターの設定温度を少し上げた。これで、裸になっても寒くはないだろう。
「立って」
「え……? はい」
 私の言葉に素直に従った笙子と、立って向き合う形になった。セーターの裾に手をかける。
「万歳して」
 笙子が両腕を上げる。身体を撫でるようにしながら、セーターを脱がす。
 次にスカート。お尻の感触を掌で楽しんでから、ファスナーを下ろす。
 ソックスは片方ずつ。笙子の脚を抱えるようにして。
 後ろを向かせて、背後から抱きすくめる。うなじに唇を押しつけて、片手は胸の上に置いて、もう一方の手でブラウスのボタンを一つずつ外していく。
 背中にキスをしながら、ブラのホックを外す。両手で、乳房を包み込む。
「少し、大きくなったかな?」
 相変わらず小ぶりな胸ではあるけれど、半年前よりも少しだけ揉み応えが増していた。笙子はまだ十五歳、胸はこれからが成長期。
 そうして私はたっぷりと時間をかけて、少しずつ笙子を裸にしていった。
 いよいよ、最後の一枚。笙子の前に跪く。
 シルクのショーツの薄い生地越しに、淡い茂みの部分にキスをする。その奥の部分は、色が変わっているのがはっきり見て取れるほどに濡れて、大きな染みになっていた。肩のあたりに鳥肌が立っていたのは、寒いためではないのだろう。
「手で隠しちゃだめだよ」
 釘を刺してから、スルスルとショーツを下ろしていく。笙子の秘所と生地の間で、透明な粘液が糸を引いてた。
 笙子は恥ずかしそうに身体を震わせ、それでも私の言いつけを守って、気を付けの姿勢を崩さない。顔は横に向けて、目を伏せてはいるが。
 私は、笙子の下腹部に顔を押しつけた。甘酸っぱい女の子の匂いが鼻腔をくすぐる。
「ん……いい匂い」
「……今日の沙紀さんて、……すごく……エッチ……」
「こーゆーの、いや? その割には、喜んでいるみたいだけど?」
 溢れんばかりに蜜を湛えた泉がその証。どんなに恥ずかしいことであっても、私に愛されれば笙子の身体は反応する。
「やっぱり、笙子の身体ってすごく綺麗。とっても可愛い」
「そんな……」
 全裸になった笙子を、私はまじまじと観察した。
 胸の成長だけではない。身体全体が、半年前よりも女らしさを増しているようだ。腰から太股にかけて「少女」と「女」の中間の曲線を描いている。
「それに、とっても感じやすくて素敵。私に脱がされただけで、こんなに濡らしちゃって」
 人差し指の先ですぅっと、割れ目をなぞる。「ひゃっ!」と短い悲鳴を上げて、笙子はぺたんと座り込んだ。ちょっと触れただけで、私の指は笙子の愛液に覆われている。
「脱がされただけ……じゃないですよぉ。沙紀さんがいっぱい触って、すごくエッチなんですもん……。ずるい、私だけ裸なんて……」
「じゃあ、私の服は笙子が脱がせてくれる?」
 私はいつも自分で服を脱いでいたけれど、笙子に脱がされる光景というのも、想像しただけでドキドキする。
 笙子は目を輝かせて立ち上がった。小さく舌なめずりまでして、私のセーターに手をかけた。
 今日の私は、珍しくミニスカートなんて履いている。脱ぎやすいように……って配慮なんだけど、笙子はやたらともったいつけて、ゆっくりと脱がしていく。もちろんその間、内腿や、あるいはもっと敏感な部分に触れながら。
 私のことを「エッチ」って言うけど、笙子だって負けていない。私の反応を楽しんでいる。
 これって、悪くない。
 笙子に脱がせてもらう方がずっと興奮する。何故だろう。以前、彼氏に服を脱がされていたときよりも、感じてる。
「――っ!」
 笙子の指が軽く触れただけで、全身が痺れてしまう。ショーツの上から割れ目をなぞられて、私は息を呑み込んだ。一瞬遅れて、身体の奥から熱いものがじわっと滲み出してくる。
「んふ」
 悪戯な笑みを浮かべながら、笙子の手がショーツを下ろしていく。濡れそぼった秘所を彼女の目に晒しているのだと思うと、そこはよりいっそう熱くなる。
「嬉しいです。沙紀さん、すごく感じてる」
 立ち上がった笙子が、私の胸に顔を埋めるようにして抱きつく。
「当たり前じゃない。笙子に触られてるんだもの」
 私も、笙子の身体を抱きしめた。
 火照った肌と肌が密着する。服を着たまま抱き合ったときよりもずっと気持ちいい。
 滑らかな笙子の肌は、まるで吸い付くみたい。
 しっかりと抱き合って、二人の身体に挟まれたお互いの乳房が、ふにゃっと潰れる。
 抱き合うことにばかり意識が集中して、バランスが崩れた。私たちはしっかりと抱き合ったまま、ベッドに倒れ込んだ。
 そのまま笙子に覆いかぶさって、鎖骨の上にキスをする。それから少しずつ、胸の方へと唇を滑らせていく。
「あ……っ、やっ! や……だ……」
 予想外の抵抗だった。笙子は、両手で私の身体を押し返そうとする。
「どうして?」
 私はむっとした口調で訊いた。少し、傷ついていた。ここまで来ておあずけなんて、ひどすぎる。
「最初は、わたしがするんです。わたしが、沙紀さんを気持ちよくしてあげます」
 真剣な表情で訴える笙子に、私は思わず吹きだす。
「そんなの後でいいじゃない。最初はいつも通り、私がしてあげるってことで」
 年齢差、経験差、そして性格。私が「攻め」になるのが普通だった。
 それでも何度か笙子に攻められたこともあり、それはそれですごく気持ちよかったのだが、やっぱり久しぶりなんだし、可憐な美少女が私の愛撫で乱れるところが見たい。
 だけど笙子は、そんな私の意見を却下した。
「だって……沙紀さんってば…………」
 台詞の後半はごにょごにょと小さな声になる。
「なに?」
 訊き返したのは意地悪ではなく、本当に聞き取れなかったためだ。
「……すごく激しくって……。わたしがへとへとに疲れて失神しそうになるまで、止めてくれないんですもん」
「あはは。なーんだ、そんなこと」
 それは確かにその通り。だけど、仕方がないじゃない。
「だぁって。笙子が悶える姿って、すごく可愛いんだもん。ついやりすぎちゃう」
「だから、私が先にします」
 頑として譲らない。笙子は顔に似合わず、意外と強情なところもある。
「今日は、バレンタインのプレゼントのために来たんですから、これもプレゼントのうちです」
 私の胸に手を伸ばしながら言う。私も同じように、笙子の胸を掌で包んだ。
「だぁーめ、私が先。年上の言うことを聞きなさい」
「こういうことに年上も年下も関係ありません」
 笙子は両手で私の乳房を揉みしだく。それならば……と、私は笙子の下半身に手を伸ばした。
「やっ……! 反則ぅ……」
 身体を捩って悶えながら、笙子も同じことをしてくる。
「あっ……っ! こらっ……はぁっ!」
 まったく同じ、ではなかった。いきなり、指を中まで入れてきたのだ。
 これまでさんざん抱き合ったりキスしたりして、私の身体はすっかり準備ができあがっていた。ただでさえ華奢な笙子の指だから、すんなりと受け入れてしまう。それが与えてくれる刺激に酔いしれそうになる。
「ん……ぅふっん……っ!」
 気持ちいい。だけど、先手を取られてこのまま流されてしまっては、年長者の面目が立たない。
 私は本格的な反撃に出た。中指を割れ目にもぐり込ませて、前後に滑らせる。いきなりの挿入は、笙子には逆効果だから。
 そこはもう十分に潤っていた。摩擦係数は限りなくゼロに近く、なんの抵抗もなく指が滑る。
「やっ……あん! あっ……ぁん! やぁぁっ……」
 たちまち、泣きそうな声を上げはじめた。私はさらに人差し指と中指を揃え、小さなクリトリスを間に挟むようにして前後に滑らせる。割れ目全体とクリトリスを同時に攻めるこの指使いは、笙子のお気に入りのテクニックの一つ。
「はぁっ! ……あぁんっ、ぁっ……ぁっ……あんんっ!」
 長い髪を振り乱して、笙子が悶える。私の中の指の動きは止まって、感じることに専念しはじめたようだ。
 溢れだした蜜が、私の手を濡らす。
 もう一息。
 親指の腹でクリトリスへの愛撫を続けながら、中指を挿し入れた。
「あぁぁっ! あぁぁぁんっ やぁぁ……」
 笙子の身体が仰け反る。そのままイってしまうかな……と思ったら、土俵際で踏みとどまった。
「……沙紀さん、ずるい! そんなに……」
「っ……あぅっ! んっ……こらっ!」
 私の中の指が、動きを再開した。中指と人差し指の二本で、かき回すように激しく。思わず、それに合わせて腰が動いてしまう。
 笙子は右手で私を攻めながら、もう一方の腕でぎゅっとしがみついてくる。私も、空いている腕を笙子の身体に回した。
 片手でしっかりと抱き合って、片手で相手を攻め立てて。
「おっ……となしく、いうこと聞きなさ……あぁぅっ!」
「……さ……ぁっ、沙紀さん……こそ……ぁんっ! あぁぁんっ!」
 お互い一歩も譲らないまま、どんどん昂っていく。なんだか妙な展開になってしまった。
「じゃ……あっ、……先に、相手をいかせた方が……勝ちってことで……」
「……女と女の勝負……ですねっ……ま、負けませ……んよっ」
 ここまで来たら意地がある。負けるわけにはいかない。
 お互いむきになって、相手を攻め続ける。指の動きはどんどん激しくなっていくから、快感の度合いも加速度的に高まっていく。
 ぴちゃぴちゃ、くちゃくちゃ。
 湿った音が響く。私の手はびしょ濡れだし、私を攻め立てている笙子の手も同様だろう。
 ベッドの上で横向きに抱き合って、相手の股間に手を入れて。
 少しでも相手を感じさせようと、精一杯指を動かしている。
 二人の甘く切ない声のハーモニーが続く。
「ふっ……んっ……無理してないでっ、さっさといっちゃい……なよ」
「沙紀さ……ん、こそぉ。あぁ……ん……すごく……感じてるくせに……ぃ」
 お互い、涙目になって。
 涎まで垂らしてる。
 残り少ない理性は抵抗しようとしているのに、身体は勝手に相手の指と同調して動いている。
 太股を閉じて、手をぎゅっと挟み込んで。
 一気に、快感の頂へと昇っていく。
 本当にもう、今にもいきそうだった。その気になればいつでもいける、綱渡りのような状態で辛うじて踏みとどまっている。
 笙子も、同じような状態に見えた。
 テクニックという点では私の方がかなり有利なはずだが、しかし笙子よりもずっと成熟している私の身体は、未熟な笙子よりも感じやすい。結果、戦況は互角だった。
 指の動きをさらに速くする。すかさず、笙子も同じことをしてくる。
「あぁんっ! あぁぁんっ、あんっ! あんっ! あぁぁんっ! いやぁぁんっ!」
「はぁっ、あぁぁっ! あぁっあっ、あぁぁぁっ!」
 いい。
 いっちゃう。
 もう我慢できない。
 これ以上我慢したら、気を失ってしまいそう。
 いっちゃう。
 いきたい。
 無我夢中で、笙子の唇を貪った。笙子も必死に舌を伸ばしてくる。
 大きく口を開いて、舌を絡めあった。
「んんっ! ン……ぅン!」
「ぁん……んっ! んんんーっ!」
 二人の指の動きが同時に止まった。
 ぶるぶると痙攣して、相手を抱いている方の腕に力が入る。
 私たちはタイミングを合わせたかのように、まったく同時に達してしまった。



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