MI・KU・MI 22

22

『大切な用アリ。ＰＭ４時、駅前で待つ。～ＫＵＭＩ～』
　久しぶりに、公美さんからメールで呼び出された。
　こんな日に限って他の友達からのお誘いもなくて、仕方なく指定された時刻に駅へと赴いた。
「……なんの用？　わざわざ呼び出したりして」
　今朝だって、電車の中で会ってるのに。きっと、触るのに夢中になってるから用件を忘れるんだ。
「言っとくけど、食事は付き合わないよ」
　あたしは冷たく言い放った。
　素晴らしいご馳走や美味しいワインには未練があるけれど、また公美さんと一緒に食事をして気持ちよく酔っぱらってしまったら、今度こそ終わりという気がする。つけ込まれる隙を見せちゃいけない。
「冷たいんだから」
　公美さんが苦笑する。
「ひとつ、お願いがあるの」
「お願い？　やらせろって？　冗談じゃない」
「そんな事じゃないわ。それなら、お願いなんかせずに無理やりするもの」
　そーゆーこと、さらっと言わないでほしい。
「それより、ね、君の高校ってもうじき学園祭でしょ？」
「……どうして知ってるの？」
「関東圏の主要な女子校のイベントは全部チェックしてあるもの」
　胸を張って自慢げに言う。もちろん、あたしは呆れていた。
「君のクラスは何をやるの？」
「……クレープ屋さん」
「いいわね。ねーねー、招待状ちょうだい」
「どーして、あんたなんかに」
　冗談じゃない。学校にまで乗り込まれてはたまらない。
「私と美鳩ちゃんの仲じゃない、ね？」
　いきなり抱きつかれた。街中の、駅前なんて人通りの多い場所で。
「や、やめてよ！」
「ね、招待状？」
「ヤダ」
「明日の電車で、ものすご～く気持ちのいいことされたい？」
「絶っっ対にイヤ！」
「じゃ、招待して」
「うぅ……」
　公美さんの目は本気だった。

「やっほー！　美鳩ちゃん、来たよー」
　陽気なその声に、頭を抱えたくなった。
　大声で名前を呼ぶな、と怒鳴りたい。
　学園祭の当日、一般公開の日曜日である。あたしは公美さんに見つからないように隠れていたかったんだけど、薄情なクラスメイトたちがそれを許してはくれなかった。
「あんたが売り子をやらずにどうするのっ？　その顔と胸で男性客を集めなさい！　クレープ屋なんて、女性客は一定数が見込めるんだから、いかに男に買わせるかで売り上げが大きく変わるんだからね！」
　――と。
　おかげで、一般公開と同時にろくに休憩ももらえないような状態が続いている。はっきりいって労働基準法違反だ。
　それでもお客さんのピークが過ぎて、ようやくひと息つけるようになった頃に公美さんがやってきた、というわけだった。
「やぁん！　美鳩ちゃんてば可愛いぃっ！」
　あたしを見るなり、公美さんが歓声を上げる。クラスメイトたちの陰謀で、あたしはアンミラの制服に似たデザインの、やたらと胸を強調した衣装を着せられていた。もちろんスカートはピンク色のミニである。
　公美さんはおもむろにショルダーバッグから小さなディジタルカメラを取り出すと、パシャパシャとあたしの写真を撮り始めた。
「もぉ、商売の邪魔！　あっち行ってよ！」
「こらこら、お客さんにそーゆーこと言わないの」
　男性客向け売り子であるあたしの横で、『女性客向け売り子』をしていた聖さんが口を挟んでくる。
「で、こちらの綺麗なおねーさんはハトの知り合い？」
「え？　あ、えっと……」
　訊かれて、言葉に詰まった。さて、なんて答えたらいいんだろう。
　もちろん正直に話すわけにはいかないので、とっさに嘘をついた。
「え、えっと……い、従姉なの」
「へぇ」
「誰が従姉だって？」
　あたしにだけ聞こえるように、公美さんが小声でささやく。あたしも小さく言い返した。
「ホントのこと言ってもいいの？　あたしをつけ狙う痴漢だって」
「恋人って紹介してくれないの？」
「誰がっ！」
　最後だけ思わず声が大きくなってしまったけれど、幸い周囲のクラスメイトは特に気にも留めていないようだ。
「知らなかったなぁ。ハトにこんな美人の従姉がいたなんて」
　聖さんを筆頭に、みんな素直に感心している。「これ、どうぞ」なんて、焼きたてのクレープを差し出したりしている子もいた。
　この辺は女子校の悲しさか、一年生には特に「綺麗なお姉さま」には弱い生徒が多い。性格に致命的な難があるとはいえ、公美さんは黙ってさえいれば、十人が十人とも認めるような正統派美女なのだ。
「ハトの交代まで、私が校内をご案内しましょうか？」
　そう申し出たのは聖さんだった。
「迷惑じゃない？」
「まさか。こんな素敵なお姉さまのエスコートができるなんて光栄です」
　応えながら、顔がにやけている。どうやら聖さんは年上もＯＫらしい。そういえば上級生のお姉さま方にも人気のある人だった。
　当然、公美さんも嬉しそうである。彼女の性格を考えれば、美人の聖さんを伴っての女子校見物なんて、そりゃあ楽しいに決まっている。
　あたしも特に異論はない。頭痛の種を聖さんに押し付けることができて、しばらくは鼻歌交じりに売り子の仕事をこなしていた。
　……が。
　時間が過ぎると、だんだん不安になってきた。
　二人はなかなか戻ってこない。もうじき交代の時間なのに。
（……まさか）
　あたしは、大変なことに思い当たった。
　学校の中だから……と油断していたけれど。もしかして公美さんは、どこか人目につかないところに聖さんを連れ込んで、あんなことやこんなことをしているのではないだろうか。
　いくら大人っぽい聖さんだって、公美さんの前ではまだまだ子供。いいように弄ばれてしまっているのかもしれない。
　学園祭の校内だって、その気になれば人目につかない場所はいくらでもある。
　トイレに連れ込まれたりとか、体育館のシャワー室とか。
　考えまいとしても、嫌な光景が頭に浮かぶ。
　あたしがされたみたいに、両手を縛られて服を脱がされて、あんなことやこんなことをされている聖さんの姿。身体中触られて、舐められて、指とか、変なおもちゃとか中に入れられて……。
　ああ。すごくまずい状況下もしれない。聖さん、あんな変態と二人きりにしてごめんなさい。どうか無事でいて……。
　どんどん、考えがエッチな方向に進んでいく。胸がドキドキする。
　心配でいてもたってもいられなくなった頃、ひょっこりと聖さんが一人で戻ってきた。思わず、「よかった、無事で。変なことされなかった？」と言いかけて、慌てて口をつぐんだ。
　その代わり、黙って観察。
　なにか、変なことをされた形跡がないかどうか。
（あ……）
　タイの結び方が妙にルーズで、ブラウスの一番上のボタンがはずれているではないか。
　これってまさか……。
　いやいや、違う。聖さんはいつも、こんな風にルーズな制服の着方をするのだ。
　でも、心なしか頬が赤いような気もする。しかし確証は持てない。
「ご苦労さん。ハト、交代するよ」
「……う、うん」
　何もなかったのかどうか確かめたい。が、そんなこと訊くに訊けない。
「公美さんは第二校舎の屋上にいるから。早く行ってあげなよ」
　何気ない調子の聖さんの台詞だったが、その中のひとつの単語にあたしはぴくっと反応した。
　第二校舎の屋上？
　一般公開されている第一校舎と違って、第二校舎は今日はがらんとしている。そんな危険な場所に、聖さんは公美さんと二人きりでいたのだろうか。
　あの公美さんが、美人でスタイルのいい現役女子高生と二人っきりでいて、しかも相手はその気があるかもしれない聖さんで。
　何もない方がおかしい、という気がする。
　どうしよう。聖さんに何かあったら、公美さんを野放しにしていたあたしの責任だ。
　胸がきゅうっと苦しくなる。
「どしたの、ハト？　早く行かないと」
「え……う、うん」
　聖さんの様子は普段と変わらないみたいだけれど、でも、本当のところはわからない。
　あたしは曖昧に返事をして第二校舎へ向かった。

　屋上へ行くと、公美さんの姿はすぐに見つかった。
　給水塔の下の、ちょうど座るのに都合のいい段になった部分に腰掛けている。手にはたこ焼きのパックと烏龍茶の紙コップを持っていて、あたしに気がつくとにこっと笑って差し出してくる。
　休む間もない労働で疲れて空腹だったので、素直にその好意を受け取った。大きなたこ焼きをひとつ口に放り込む。
　学園祭で素人が焼いたにしてはずいぶんと美味しい……と思ったところでふと思い出した。たこ焼きを売っていたのは料理部だったはず。あそこの部長は、この学校の生徒にも人気があるお好み焼き屋の娘ではなかったか。いってみればプロの仕事である。
　八個入りのたこ焼きのうち五個をあたしが平らげ、烏龍茶で喉を潤してようやく一息つくことができた。
　時刻はもう夕方で、正面に大きな紅い夕陽が見える。学園祭の一般公開ももうすぐ終わりだろう。今日は充分すぎるくらいに働いたんだから、後片付けは聖さんたちに任せても文句は言われまい。
　あ。
　聖さんといえば。
「……あの」
「ん？」
　たこ焼きに気を取られて忘れていたことを、ようやく思い出した。
「聖さんに……何かした？」
「何かって？」
「だから……、その……普段あたしにしてるようなこと」
「さあ、ね」
　公美さんは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「聖子ちゃんに訊いてみたら？」
「訊けるわけないじゃない！　ね、ホントのこと言って」
「ハトちゃんってば、やきもち？」
「誰がっ！」
　思わず大声で叫ぶと、公美さんが小さく笑ってあたしの顔を指差した。
「歯に青ノリついてるよ」
「えっ？」
　慌てて口を押さえようとして、だけどその前に公美さんに手首を掴まれてしまった。
「私が取ってあげる」
「――っ！」
　見事な、としかいいようのない早技で唇を重ねてくる。
「ぅ……ん……」
　すかさず、舌が入ってくる。青ノリが付いているであろう、唇や歯を舐めている。
　あたしは抵抗しようとしたけれど、両手首をしっかりと掴まれて身動きが取れなかった。ようやく公美さんの顔が離れたのは、口中隅々まで舐められてしまった後のこと。
「ソース味のキスって、あんまりムードはないわね」
「ちょ、ちょっと！　学校でこんなことして、誰かに見られたら……」
　火照った顔を両手で押さえながらあたしは言った。
「誰もいないわよ。だからもう少し……ね」
　また、近付いてくる。
　肩を抱かれて、もう一方の手が胸の上に乗せられて。
「や……だ……」
「君、クラスではハトちゃんって呼ばれてるんだって？　可愛らしくていいね」
　ちょん、と軽く唇と唇が触れる。続いて頬に、おでこに、そして耳たぶに。
「や……ん」
　胸の上の手が動いて、ブラウスのボタンをひとつずつ外していく。上から四つ目まで外されたところで、手が中に滑り込んできた。ブラジャーの上から胸を包み込む。
「……ダメだって……ホントに……」
「大丈夫」
　柔らかくふにふにと、乳房がこね回される。もう乳首が固くなりはじめていた。
　胸を揉まれながら、何度も何度もキスされてしまう。
「ねぇ……ヤダよ、こんなの……」
　もちろん、公美さんはあたしの苦情なんかに耳は貸さない。しばらく胸を弄んでいた手が、やがて下へと移動を開始する。その頃にはもう、あたしは強く抵抗する意志を失っていた。
　ピンク色のミニスカートがまくり上げられる。本物のアンミラの制服なら、下はショートパンツ風になっている筈なんだけど、これは裁縫の得意なクラスメイトが作った模造品。構造は普通のミニスカートである。
「んっ……くン……」
　パンツの上から、敏感な割れ目を指でなぞられる。身体がぴくっと痙攣した。
　強すぎず、弱すぎず。本当に絶妙の加減で指が滑っていく。
　徐々に、割れ目の奥へと押し付けられてくる。
「あン……あっ……んっ……ふぅん……ンっ」
　周囲に人がいないとはいえ、ここは学校の中。大きな声は出せない。きゅっと閉ざした唇の端から、切ない吐息が漏れる。
「ほぉら、感じちゃってる」
　耳元でささやく、公美さんの甘い声。背筋がぞくぞくする。
　公美さんの指が、パンツのゴムの部分にかかる。
「ちょっと腰浮かせて」
「ん……」
　無意識のうちに、その言葉に素直に従っていた。パンツはするりと膝のあたりまで下ろされ、夕陽に暖められたコンクリートの感触が、直にお尻に伝わってくる。
　公美さんはあたしの脚を片方持ち上げ、パンツから足を抜かせてしまった。自由になった脚が開かれる。あたしの胎内から流れ出した蜜が、お尻の方まで流れ出した。
「もうトロトロになってる」
「ひっ……ん」
　一番敏感な部分に、直に指が触れる。
　最初は一本で割れ目に沿ってなぞって。
　やがてそれが二本に増えて。
　次に三本になった指は、二本で割れ目を広げて、さらけ出された粘膜を残った一本で弄ぶ。
「はぁ……っ、あっ……あっ、あぁっ……あぁんっ！」
　ぴちゃぴちゃ。
　くちゅくちゅ。
　あたしの下半身から、エッチな音が聞こえてくる。
　公美さんの指は魔法の指だ。ちょっと触られただけで、信じられないくらいに気持ちよくなってしまう。
　いやらしい涎を垂れ流して、あたしはその愛撫を受け入れていた。乾ききったコンクリートの上に、黒く濡れた染みが広がっていく。
　ビクッ、ビクン！
　時折、意図せずに身体が痙攣してしまう。快感の小さなピークを越えた証だ。
　あたしの身体は軽いエクスタシーを何度も繰り返しながら、さらなる高みへと昇り続けていた。
「う……ぅんっ！　く、ぅん……」
　指が、中に入ってくる。
　羨ましいくらいにすらりと長い、公美さんの中指。
　ゆっくり、ゆっくり。
　繊細なあたしの粘膜を傷つけないように。
　一番、深い部分へと辿り着く。
　公美さんの指を奥まで受け入れたのは初めてだった。お腹の、ずっと奥の方がびりびりと震えているように感じた。
「気持ち、いい？」
「…………ン」
　小さくうなずく。
　あたしの理性はあの部分と同様にトロトロにとろけて、どこかに流れていってしまっていた。抵抗する気なんてまるで起きなくて、ただ公美さんが与えてくれる快楽を貪っていた。
「く、ぅぅ……ん、ん……」
　指がゆっくりと引き抜かれる。
　第一関節から先だけが中に残って、入り口付近の敏感な部分をくすぐる。
　そしてまた、奥へと挿入される。
　ゆっくりと引き抜かれる。
　何度も、何度も繰り返される。
　指の一往復ごとに、悲鳴を上げそうなほどに感じてしまう。今まで経験してきた浅い部分だけの愛撫とは違う、膣内全体に加えられる刺激に酔いしれていた。
「は……ぁぁ……。あっ……い、いい……」
「気持ちいい？　いっちゃいそう？」
　公美さんが優しい目であたしを見つめる。あたしも、焦点の合わない潤んだ瞳で見つめ返す。
「うン……すごい……いっ、すごい……感じちゃう……」
　すごく、感じている。
　なのに、むしろ普段よりもリラックスしているみたい。あたしはゆっくりと、与えられる快感を楽しんでいた。
　電車の中じゃないから。
　ここだって、いつ人が来るかという不安はある。だけど、周囲に人がいるわけじゃないから。
　素直に、公美さんの指だけに意識を集中することができた。
　あたしの中を何度も往復する公美さんの指が、岡村美鳩という鉱脈の中から快楽という名の鉱石を掘り出していく。
「は……ぁっ！　あぁっ……ぁんっ！　あぁっ」
　かなり長い間、楽しんでいたように思う。いつものように、駅に着くまでなんていう時間制限はなかったから。
　徐々に高まっていく快感。
　最後は、突然やってきた。
　じわじわと、しかし着実に上昇を続けていた快感のゲージが、あるラインを超えた瞬間にぐんと跳ね上がった。あたし自身、まるで予想もしていなかった反応だった。
「――――っ！」
　久しぶりに、公美さんの指で達する快楽の頂。
　身体中の神経に高圧電流でも流されたような感覚だった。
　悲鳴を上げそうになったあたしは、無我夢中で公美さんにしがみついて唇を重ねていた。

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