いつもと同じ、朝の電車。
 乗ってすぐに、あたしは周囲を確認した。
 大丈夫、昨日の女性は見あたらない。
 まあ、同じ車両で毎日痴漢行為を働いていては、捕まる危険も高くなるのだろう。
 あたしはふぅっと安堵の息を漏らすと、素敵なスーツをぴしっと着こなした、一流企業のOL風の女の人の横に立った。
 今日は、安心していられる。
 そう思って電車に揺られていると。
 突然、身体がびくっと痙攣した。
 誰かに、お尻を触られたのだ。
(また、痴漢……?)
 いったい誰が……と周囲を見回そうとした時、耳に息が吹きかけられた。
「ひっ……」
 思わず首をすくめる。
「自分からすり寄ってくるなんて……昨日のが気に入った?」
 耳元でささやく声。
 聞き覚えのある声。
 あたしは驚いて、その人の顔を見た。
「――っ!」
 横に立っていたOL風の女性は、実は昨日の人だった。
 昨日とは違い、スーツを着て髪をアップにしていたので、ちょっと見ただけでは同じ人と気付かなかったのだ。
 あたしは蒼白になる。
「そんなに気持ちよかった? またして欲しいの?」
「ち……違います!」
 逃げ出したかったけれど、混んだ電車の中では身動きがとれなかった。女の人の手が、スカートの中にもぐり込んでくる。
「や……んっ、う、ふ……んんっ」
 触れられた部分に、電流が走ったみたい。
「いい反応するね、君。すごく可愛い。それに、胸も大きいし」
 胸も触られてしまう。
 聖さんのおふざけとは違う。ゆっくりと、だけど力強く、念入りにこね回している。
「やぁ……ぁん……」
「ここも、柔らかくてぷくぷくしてる」
「あっ」
 スカートの中の手が、下着の上からあそこに触れる。一番敏感な部分に、指が押しつけられる。
 二度、三度。くいくいと押されて、柔らかい割れ目の中に指先がもぐっていく。
「あっ……あっ……」
「ほぉら、もう濡れちゃってる」
「そ、そんな……」
 あたしは耳まで真っ赤になってしまう。
 恥ずかしいけれど、まったくその通りで。
 指先で押されるたびに、身体の奥から蜜が滲み出してきていた。
「や……めて、ください……」
 蚊の鳴くような声で、それだけ言うのが精一杯。
 だけど。
「いや。こんな楽しいこと、止められるわけがないじゃない」
「そ……んな……」
 にやっと意地の悪い笑みを浮かべて、かえって指をの動きを速くしていく。
 指が、下着の中に入ってくる。
「やっ……ダ、メ……」
 パンツの中にもぐり込んだ指先が、あたしの入口をくすぐっている。
 ゆっくりと、濡れた粘膜をかき分けて。
 少しずつ、奥へ侵入してくる。
「だ、ダメっ……そこ……はっ」
 あたし、まだバージンなのに。
 自分でも、指なんて入れたことないのに。
 だめ、そんなところ。
 それ以上されたら……。
「や……めて、ください……大声、出しますよ」
「出せば?」
 勇気を出して言ったのに、全然堪えてない。平然と笑っている。
 むしろあたしを挑発するように、指先をこちょこちょと動かした。
「んっ……くっ、くぅん……」
 あたしは唇を噛みしめて、肩を震わせて、声が漏れそうになるのを堪える。
「ほ……ホントに大声出しますよ……。いいんですか、捕まっても?」
「その時は諦めましょ。でも……」
「ひっ……」
 指が、少しだけ深く入ってくる。あたしは悲鳴を呑み込んだ。
「君が叫んだら、この指を奥まで入れちゃうからね。人差し指も、薬指もまとめて」
 耳元でささやく声が、少しだけ低くなる。
 脅すように。
 背筋がぞくりとした。
「君、バージンでしょ? 電車の中で処女喪失したくなければ、大人しくしてなさい。それとも下半身血まみれの姿を、ここで皆さんに披露する?」
「や……」
 今、中指が二センチくらい入ってきている。そして、もう一本の指が入口に押しつけられた。
 本気だ、と。そう感じた。
 抵抗すれば、本当にあたしの初めてを奪ってしまう。
 脚ががくがくと震えた。
 怖くて、声も出せなくなる。
 怯えた目で、相手の顔を見た。
 その人はあたしと目が合うと、ふっと目を細めた。
「そうそう、いい子ね」
 声が、笑いを堪えているような優しいものに変わる。
 指が引き抜かれ、割れ目の上を優しくなぞっていく。
「冗談よ。私も女だからね、それがどれほど大切なものかはわかってる。君のバージンを奪ったりはしないから、安心して」
 だけど触ることを止めてはくれず、指全体を使って濡れた粘膜を擦りあげる。
 安堵感と共に、また激しい快感が襲ってきた。
「ひ……ぅっ、ん……」
「前には入れられないからね。今日のところは、こっちで楽しみましょう」
「ひゃっ!」
 濡れた指先がお尻の穴に触れて、驚いたあたしはぴょんと飛び上がった。
 一瞬遅れて、「今日はこっちで楽しむ」の意味を理解する。
 かなり力の入った指先が、ぐいと押しつけられた。
「やっ……そんな……」
「昨日は、ここもけっこう感じてたみたいじゃない? 大丈夫。痛くしないから」
「や、だ……め……」
 その部分が、エッチなことにも使われるというのは、知識では知っている。ボーイズラブものの文庫とかはよく読むから。
 だけど自分のこととなると、信じられない。
 指が入ってこようとしている。
 あたしはお尻に力を入れてそれを拒もうとしたけれど、ぬるぬるに濡れて滑る指を完全に食い止めることはできなかった。
 じわ……じわ……。
 お尻の穴が広げられていく。
「力、抜きなさい。じゃないと痛いよ」
「やぁ……やめて……」
「大丈夫。慣れればここもすごく気持ちいいんだから」
「やだ……いやぁ……あ!」
「こら、強情張らないの」
 別な指の爪先が、クリトリスをぴんと弾いた。微かな痛みを伴って脊髄を走った刺激に、一瞬、身体の力が抜ける。
「ひっ、いぃっ! うっ……くっ!」
 そのわずかな隙に、指先に侵入されてしまった。
 先刻までは、単に指先が押しつけられているだけのような状態だったのに、今ははっきりと、第一関節のあたりまで中に入っている。
「や……やぁぁ……。く、ふぅ……んっ! い……いやぁ……」
 異物の侵入に対してお尻の穴は反射的にすぼまって、指をぎゅうっと締めつけている。それで余計に、強い刺激を受けてしまう。
「ぁ……ぁ……。や、ぬ、抜いて……」
 初めての感覚。
 舌が震えてうまく喋れない。一瞬でも気を抜いたら、悲鳴を上げてしまいそうだ。
 あたしの意志とは無関係に、お尻の穴は異物を押し返そうとするかのように、ぎゅう、ぎゅうと伸縮を繰り返している。
 その、一瞬力が緩むのとタイミングを合わせて、指はミリ単位で奥へと進んでくる。
「あ……は、ぁ……あぁ……」
 少しだけ痛くて。
 少し苦しくて。
 そして、なんだかもやもやとした不思議な感覚。
 前の方を触られた時のような、はっきりとした快感とは違う。
 だけど指が動くたびに、思い切り喘ぎ声を上げたくなるような。
 それを堪えるために、あたしはだらしなく口を半開きにして、荒い呼吸を繰り返した。叫び声を、音のない呼気に変えて吐き出す。
 指は、もう第二関節くらいまで入っているようだ。中をかき混ぜるように動きながら、まだ奥へと進み続けている。
「や、だ……。ねぇ、お願い……もう……」
「まだまだ、これからよ。ほら、もっと奥まで入っちゃう」
「や……あっ、イタ……ぁ……あ」
 掌が、お尻に触れる。そのままぴったりと押しつけられる。
 中指は、根本まですっかりあたしのお尻に呑み込まれてしまっていた。
 そのまま、掌全体でマッサージでもするように円を描く。
 お尻の穴の部分と、中の直腸と。
 その全体に刺激が伝わる。
「んー、君ってけっこう素質アリかな?」
 女の人は、なんだか嬉しそうに笑っている。
「こーゆーのは、どう?」
 二、三センチ、指が引き抜かれた。入ってくる時よりも、ずっと速い動きで。
 あたしの直腸もお尻も、それに同調する。ちょうど、排泄の時と似たような感覚だった。
 しかし指はそこで止まり、また、ゆっくりと奥へ戻ってくる。
「ひっ、あ……ぅ……んんっ」
 指を排出しようとする腸の動きに逆らって、さらに押し込まれる指。先刻よりも強い刺激を感じてしまう。
 また、指は根本まで入って。
 また、途中まで引き抜かれて。
 何度も何度も、繰り返される。
 少しずつ、動きが速くなっていく。
 たまらない感覚だった。
 あたしは今、指でお尻の穴を犯されているのだ。
「や……めて……。や、おね……が……あっ」
 いつの間にか涙が溢れて、頬を濡らしていた。
 どんなに堪えても、微かな嗚咽が漏れてしまう。
 だけどその指は、あたしを犯し続けている。
 頭がぼぅっとしてきた。
 気が遠くなりそうだ。
 腰に腕が回されていなければ、立っていることもできなかったかもしれない。
 いつしか時間の感覚もなくなって、あたしはただ唇を噛んで、下半身に加えられる凌辱に耐えていた。
 それがどのくらい続いただろう。
 不意に、指が引き抜かれた。犯され、広げられていたお尻が、完全にその入口を閉じる。
 絶え間なく加えられていた刺激がなくなったことが、朦朧としていたあたしの意識を引き戻した。
 はっと我に返ると、女の人の手が、乱れたあたしの下着を直してくれている。
 それから、ハンカチが濡れた頬に押し当てられた。
「……?」
 あたしはまだ、事情が飲み込めていなかった。
「さ、着いたわよ。行ってらっしゃい」
 電車のドアが開いて、ぽんと背中を押されて、それでようやく理解した。
 いつの間にか、あたしが降りる駅に着いていたのだ。
 ちらりと、女の人の顔を見る。目を細めて、優しげに微笑んでいた。
 ぷいっと顔を背けると、あたしは逃げるように電車から降りた。
 ホームに降りても、すぐには動けなかった。
 昨日と同じように、放心してしばらくベンチに座っていた。
 濡れた下着が、ひんやりと冷たくなっていく。
 だんだん、羞恥心が甦ってくる。
 痴漢の指でお尻を犯されていたというのに、あそこはエッチな蜜を溢れさせていたのだ。
「……きもち……わるい」
 あたしはふらふらと立ち上がると、下着を拭くためにトイレへ向かった。



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